3-5
俺は人生史上最大級に気まずい思いでキッチンの椅子にケツを乗せていた。クリスは腕組みをしてシンクに寄りかかっている。リビングでもよかったんだろうが、今はとにかく、ソファーとかベッドとか、やわらかいものの上には座りたくなかった。床は……床もダメだ。
「すまない、まさか私じゃなくお前のほうに来るとは思わなかったものだから……」
クリスは心底申し訳なさそうに言った。
人狼にはふつう淫魔のあの手の魔法は効かない――系統が違うからだっていうんだが、俺には効いたのは……たぶん俺ができそこないだからだろう。
「クリスって、たまに抜けてるよな」
吸血鬼は家に上げるし夢魔よけも忘れるなんて。
つい、自分のことを棚に上げて言ってしまった。
クリスはため息をついた。
「いくら私でも、そんな自己犠牲のしかたはしないよ。ディーンは吸血鬼じゃないんだから。それに、ミスター・ノーランにも、これ以上血を分け与えるつもりはないしね」
クリスにはただ、俺を守るために自分の血を飲んだらどうかって提案をクリスに化けた夢魔のヤツがしてきて、俺はそれで自分が狼に変身しかけた夢を見たんだと、肝心なところはぼかして説明してあった。
「…………」
「そんなに落ち込むことはないよ」
俺が黙っているのをカン違いしたのかクリスが言った。
「お前はまだ成長途中なんだし……これから自分の望む方向に変化していく可能性だってあるだろう?」
……いや、俺が恥ずかしいと思ってるのは、本人だと思ってコトに及んだのに実はそうじゃなくて、おまけにそれを当の本人に、知ってか知らずかなぐさめられてるってシチュエーションにだよ。
そのあとクリスは聞いたこともないお祈り(というか呪文?)を唱えながら俺の部屋の四隅に聖別した塩を
次の日、ひょっとしたら、と思って俺はメルに聞いてみた。
「テンプル騎士団の悪徳ってなんのことか知らない?」
「テンプル騎士団って……フランス王フィリップ四世に解散させられた騎士修道会のこと?」
「あー……うん、たぶんそれ」
「悪徳っていうのがなんなのかよくわからないけど、よかったら調べてみようか?」
メルが調べてくれた内容は、純真な彼女を赤面させるのにじゅうぶんだった。
ちくしょう、ニックのやつ、覚えてろよ。
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