口のきけない少女 その後
あら旅人さん、こんにちは。この村はどうですか? 面白いところはないけど、悪くないでしょう。特別なおもてなしはできませんけど、ゆっくりしていってくださいね。私たち、よそから来た人が好きなんです。気軽に声をかけてくれれば、みんな力になってくれますよ。
だけど……もうお聞きになっていたら申し訳ないんですけど、ひとつだけお願いがありますの。村の外れの小屋……あそこにだけは、近づかないでもらえますか。
ああ、そう言うと気になってしまいますね。たいしたことではないんです。あそこには人が住んでいるんですけど、その子が、近くに人が来るのをとても恐がるんです。なじみがある村人でもだめ。知らない人ならもっとだめ……。彼女を恐がらせたくないから、できれば小屋のそばには近づかないでもらいたいの。
……あなた、行きそうな顔してる。だめよ、本当に止めて。……彼女、昔あなたみたいな心ない男に乱暴されてるのよ。それ以来実の兄以外、誰が側に寄っても嫌がるの。母親でもよ。彼女は口がきけないから、いざというとき助けが呼べない。それをいいことに近づくんだわ、あなたみたいな人が……。
……ごめんなさい、言い過ぎました。でも、あなたもわかってくれてよかった。性分なのかもしれないけど、忠告を素直に聞いたほうがいい場合があるって、できれば覚えておいて。あなたも旅人ならわかるでしょ? こうした小さな村は、結束が強いの。
脅しに聞こえた? そう。それならいいんだけど。
山賊? 違うわ。この辺りでそういうのが出たって話は聞かない。旅には支障ありませんよ。安心して。
……そんなに気になるの。旅人さん――本当に、心配しなくてもいいのよ。彼ならもう死んでるから。
……なに?
あなたもいつかどこかに落ち着いて、家族をつくるでしょう。そうしたらわかると思うわ。私の――私たちの気持ちが。
彼は死ぬべくして死んだ。それは決して、私たちのせいじゃないわ。
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