第4話

それから時は経ち中学3年の2月中旬。高校受験を迎えていた。


星を遠くからでも良いから見守りたいと思っていたが、これ以上思いを募らせてしまってはいけないと別の高校を選んだ。


ーーー選んだはずだった・・・・・



星は音楽推薦で私立案白高校へ行くと母が言っていた。だからどんな関わりも無いよう音楽とは縁遠い近場の商業高校へ行こうと思った。


しかし受験当日、試験会場へ行くと何故が星が居たのだ。

既に私立の推薦枠の試験は終わり1月末には合格通知を貰っているはずだ。あの星が落ちるはずもない。もし仮に落ちたとしても滑り止めとしてここを受ける意味が分からない。なんせ音楽と縁遠い高校だ。


悶々としながらも試験は終わった。

そしていざ帰宅しようとして気付いた。


ここは家から近い高校だ。徒歩で帰るとなると、敢えて時間をずらさない限り近所の星と帰りが一緒になるのは必然だった。



私たちは少し距離を空け無言で並んで歩いている。

このまま話さず家に辿り着くと思っていたら、星から声を掛けられた。



「ひなちゃんとこうやって、、、歩くの、久しぶり、だね。」



本当に、本当に久しぶりだった。

こうして並んで歩くのも。星の声を間近で聞くのも。

《ひなちゃん》と懐かしい響きに心が震える。

感情が今にも溢れそうな所で無理矢理蓋をした。

そして私は笑顔の仮面を貼り付けた。

そうしなければまともに会話すら出来ない。



「確かに。でも母さんから星の事良く聞いてたから、そんな久しぶりな感じはしないなぁ。

それよりも何で試験会場居たの?確か推薦枠で案白高校受けるって母さんから聞いたよ。星が落ちる訳無いし合格だろうから何で居たか気になったんだよね。」



私は余裕がある様な笑みを見せ、どうしても知りたかった事を聞くことにした。



「あぁ、、、それ、、か。私、元々案白高校行く気は無かった。から、受けて無いよ。

別にそこに行かなくても、今まで通りひなちゃん家で習えば良いし。

、、、それに、朝はゆっくりしたいし近場のあの商業高校のが都合が良いの。」



そう語った星の顔を見ると嘘を言ってるようには見えなかった。言葉を濁してる部分は少し気になるが。。


ただ、どんな理由であれこのまま星がこの高校に進学する気なら私は進学先を考えなければならない。



第二希望はどこだったかと思い出していると



「もしかして、、、私が居るから志望校変えるとか、ないよ、ね?」



心を読まれたかの様に言われ変な汗をかく。



『はは、まさか、そんな訳ない。』と首を振ると



星は無言で私の目をじっと見つめた。心を見透かされているかのようで目が逸らせない。


結局その眼差しに私は逃れられず、、、星と同じ高校に進学する事となった。



高校に進学しても相変わらず私は運動部に所属している。

しかし部活動に力を入れていない高校である。朝練なんてなかった。


当然星と登校時間が被る事になり、約束をしたわけでも無いのに毎朝一緒に登校した。


私達は徐々に会話をする様になった。

まるで離れていた時間を取り戻そうとするかの様に。

たわいもない会話をする度に星の傍にいれられる事に歓喜した。だがそれと同時にこれ以上一緒に居てはいけないと警鐘が鳴り響きその度に心が締め付けられた。

そんな感情を抱えたまま、私は今日も笑顔を貼り付ける。




内なる黒い感情は更に色を濃くしていく。





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