第2話 時間旅行の館

「ようこそ、『時間旅行の館』へ。私は『時子』。時間の『時』に子どもの『子』と書いて『時子』と申す」


 大きな建物に入ってまず目についたのは吹き抜けの天井。そして煌びやかな調度品。そこかしこに時計をモチーフにしたオブジェが置いてある。全体的に少し古さを感じる。アンティーク、という表現が似合う内装だった。


「あの~、時間旅行ができるってサイトで見たんですけど……」

「その通り。この『時間旅行の館』では、その名の通り『時間旅行』ができる」

「はあ」


 続く言葉を待ったが、時子さんは瞬きもせずじっと動かずそこに立ったままだった。アンドロイドを彷彿とさせる佇まいだ。


「えっと……入場料とか、体験費は取らないんですか?」

「来館者から金銭は頂かない決まりとなっている。この館を見学するだけなら何も頂かない。ただ、『時間旅行』を希望する場合は対価を支払ってもらう。それは、その人の『時間』だ」


 まあ、『時間』旅行をするのだから理に適っている気もする。


「時間って、どうやって払うんですか?」

「特に何もする必要は無い。この館にいれば良いだけだ」

「そうですか……」


 やっぱり少し胡散臭い。でも、せっかく来たのだし体験していくのも悪くない。無料だし。


「過去に行って現在に戻ることはできるんですか?」

「可能だ。ただし、『過去』に滞在した時間の分だけ『現在』の時間も進む。また、『時間旅行』をするに伴い、時間旅行者の『記憶』を我々は拝見することになる」

「記憶を? なぜですか?」

「それは企業秘密だ」

「はあ」

「『時間旅行』を希望するか?」


 私は時子さんの目を見つめた。こちらを見ているのか、見ていないのか分からない瞳をしている。


「……お願いします」

「承知した。それでは、詳細は『時間旅行』を行う部屋で説明する。こちらへ」

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