第1話 予定外の訪問

 ゆらゆら、ゆらゆら。


 ゴオオォォォ……………――――


 ゆらゆら、ガタンゴトン。やや涼しい風が頬を撫でる。バニラのような甘ったるい香水の匂い。酒の臭い。煙草の残り香。咳払い。二の腕に感じる温もり。


 どうやら電車の中で寝てしまっていたようだ。電車が揺れる度、隣の人の頭が自分の方に傾くのが視界に入る。


『まもなく銀座です。出口は、右側です』


 しまった。乗り過ごした。とりあえず立ち上がり、ドアに向かう人の波に乗りながら車両から降りる。反対の電車に乗ろうと思いスマホを取り出したが、表示された時間を見て考えを改めた。もう間に合わない。かと言って、せっかく東京に来たのにそのまま帰るのは気が引ける。仕方なく、銀座で時間を潰すことにした。


 地図アプリを開き、周辺に何か面白そうなものはないか探してみる。


「時間旅行の……館?」


 ホームページに飛んでみる。どうやら時間旅行を体験できるらしい。営業中。というか二十四時間営業。入場無料。どうにも、少し胡散臭さを感じる。


 その時、一台の赤い車がすぐ横を通り過ぎた。


「っ…………」


 ズキンズキン痛むこめかみを抑え、私は覚悟を決めて「時間旅行の館」へ訪れることにした。

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