第七雛
朝起きると、急にやることが重くのしかかってくる。
身元の不確かな俺を支援してくれる団体に申請手続き、冒険者ギルドでできることの擦り合せをして、クエストの斡旋をしてもらう。
実際にクエストも明日からの取り掛かりになりそうなので、日当は明日から発生する……。
異世界も、面倒だなと思わず二度寝してしまう。
「……」
しかし、やはりソワソワして落ち着かず、俺は起き出して身支度を整える。昨日はそんなに気にならなかったが、よく見るとギルドの宿泊所は簡易宿泊の意味合いが強い。四畳間くらいにベッドとテーブル、イスがあるくらい。しっかりした木製のもので、年季が入ってる。シャワーとトイレは共同で、綺麗なことにホッとした。
身支度といってもTシャツにGパンを着るだけなのでそんなに時間はかからない。
(確か、朝食もあるんだったな……)
僕は朝食のためにレストランホールに行き、ワンプレートの朝食をとる。昨日作ってもらったカードは首からぶら下げているが、なんの変哲もないプラスチックのようにしか見えない。
なお、異世界の文字は英語ともアラビア語とも似たような文字が書いてあるが、何故か俺には読めた。また、書こうと思ったら書くことができるので不思議だ。なんらかの力が働いているのだろうと思うけど……。
「さて、これからどうするかな……」
「……」
俺の呟きに、クロマルは無言で返す。クロマルは隣のイスに座らせている。『使い魔』とかいう制度があるようなので、クロマルは使い魔として通すことにしている。
昨日、僕のために骨を折ってくれたセセコはこの街を拠点に活動する冒険者で、今朝は早くから活動中のようだ。身分証の証人にもなってくれ、宿泊の援助も受けた。いずれお返ししたいところだ。
受付の人に教えてもらったが、困っている人がいたら手助けをしている人物のようだ。
……つくづく、そんな人に話しかけられて『テンプレ、キタァァ』などとはしゃいだ自分が恥ずかしい。
とにかく、やることはわかっている。まずはそれを片付けねば……。
と、もう夕方になった。
手続きで一日潰れた。支援団体で身元の登録をし、とりあえずこの街の住人であると登録できた。セセコの世話で冒険者ギルドに登録できていたため、スムーズに行えた。税金とか住民登録というものがあり、冒険者ギルドで紹介された仕事をして報酬を得ると、一定の額が差し引かれる仕組みとなっている。
なお、職業は自営業に分類されるようだ。
兎にも角にも、夕方になったが俺は冒険者ギルドに戻り、できるクエストの斡旋を願い出る。
クエスト内容を見たが、建設作業、雑役夫などがあるようだ。採取や討伐もあるが、単独で新人の俺は受けることができない。
まずは雑役夫と言って、討伐系冒険者の下働きをして経験を積み、どこかのパーティーと雇用契約を結ぶのが常道のようだ。
この街ーーノキアは比較的穏やかな地域であり強力な魔物もおらず、新人に優しい環境と言えた。
セセコのパーティーが雑役夫を募集してないかと期待したが、専属の支援要員がいるらしい。セセコのパーティーはノキアで活躍する冒険者の中でも上位であるC級に位置づけられており、ノキア近隣でも名前が知られているのだとか。
俺は自分の立ち位置が未知数のため、雰囲気の良いパーティーである程度勉強をさせてもらいたかった。
(結構、自分の実力に期待してるんだけど、実は単なるイキリ野郎で終わるってことはないよな……)
少しだけ暗い予想をしてしまう。クロマルの説明だけを鵜呑みにして痛い目見るのは御免被りたい。
こちらの世界では若い身体になっているし、駆け出し冒険者というていで雑役夫ができる。慣れてきて、実力がわかればそれに合わせたクエストをこなせば良いのだ。
「明日は、ありません」
「はい?」
ギルドの受付の中年男性が面倒くさそうな顔をした。受付は半分が女性となっていたが、昨日と同じ職員だったため、ついこの男性を選んでしまった。
雑役夫はもともと限られた募集しかなく、明日の募集はないようだ。確かに、熟練の冒険者には専属の支援要員がいて、比較的経験の浅い者たちは自分たちで雑用をこなす。傾向として、雑役夫は、余裕のある冒険者たちが後進を育成する意味合いが強く、また、有望な若手をスカウトする場でもあった。
(しかし、明日も仕事がないと宿泊の代金が支払えなくなるんだが……)
セセコからもらった銀貨は、一泊どころかギルドの宿泊ならば二泊できるものだった。だが、三泊はできるものではない。明日も確認してみて、募集がなければ支援団体に相談するしかない……。なんだか、世知辛い世の中だな、と軽い絶望感を味わっていると、視線に気がつく。
「……」
二十歳くらいの女性二人がこちらを見て、何事か囁きあっているようにも見える……?
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