第四雛

 まずは街だろう。そうだ、人に会わねば話が始まらない。何だかワクワクするなー。

 コミュ障な俺だが、ここは異世界である。開き直って人と話ができる。はずだ。まあコミュ障と言っても、人と普通の会話くらいはできていた。


「よしっと」


 俺は一声かけると屈伸や伸脚をする。


「え、なに? 何をする気だ?」


 不安そうなコウモリを無理やりTシャツの中に押し込む。

 で、飛んだ。

 コウモリが騒ぐが、無視である。



 この世界には、大気中に『魔素』というファンタジー物質が存在する。それを呼吸で体内に取り込み、人は魔法を使う。

 まずは、検証せねばならない。俺は、魔法を使えるのか。果たして、どれくらい力があるのか……。

 まず、飛べることはわかった。しかし、上手くは、ない。というより命の危険も感じる。岩にでも激突すれば少なくとも怪我をしそうだ。『飛ぶ』というのは魔法なのか、とも思ったが、やや違う。

『魔素』を体内で『魔力』に変換し、その『魔力』をジェット噴射のように吐き出して自分の身体を飛ばしている。従って制御が難しく、飛距離も不明だ。

 人も龍も飛ぶらしいので、そのうち程度も検証したいところだ。

 なお、今は『飛ぶ』と『跳ぶ』を掛け合せて低空飛行のようなことをしている。これはこれで気持ちがいい。慣れるとスリルも薄れ、パラグライダーに乗っているかのような楽しさがある(乗ったことないけど)。


「うう……。どうか地面に激突しませんように」

「おまえね……。本当に強い龍なの!?」

「今はなんの力もない、ただの可愛いチビ龍だ」

「可愛くないコウモリにしか見えないんだが」

「おまえのせいで力がなくなったんだけどね」

「……」


 それっって、俺のせい!?

 理不尽なものを感じながら、俺は言葉に詰まる。確かに俺が邪魔したんだろうけど。


「それより、俺はどれくらい強いんだろう? 魔法は使えるのかな?」

「正直わからんが、普通より強いんじゃない? オレの新しい身体の一部の力は使えるだろうし……」


 そう言って、コウモリは黙り込む。


「なんだよ? 黙られると気になるな……」

「ああ、悪いが、オレもわからないことばかりでな。……もし、お前が数年で死ぬことになったら新しい身体はどうなるんだろう。復活が早まるのか。時を待って、どのような形でか復活するのか。それとも……」


 また黙り込むコウモリ。

 何だ、気になるな。しかし、元の名前はなんと言ったか……。


「そう言えば、名前はなんだっけ、コウモリさん」

「オレはコウモリじゃねえ〜ッ!」

「だって覚えられないんだもん」

「『邪王炎殺黒龍』だよ! 聞いたことないの!?」

「うん、まあ、この辺りの生まれじゃないし」


 などと誤魔化すが、俺の特質なのか、記憶力もそんなに良くない。仕事なども一度だけでは覚えきれないし、呑み込みも悪い……。そんなことを考え出すと、クラクラするな。

 ……考えないようにしていたが、いきなり異世界なんぞに放り込まれた。幸い、強い力(?)らしきものは授けられた。だが、話を聞く限りでは強い龍の十分の一(?)くらいらしい。はたして、それは強いのか、弱いのか。不安になる……。新しい龍の身体も眠っているようだし、頼りになるはずのコウモリもギャーギャー言ってるだけだ。

 この世界を飛びながら垣間見たが、未知なる世界はワクワクする反面、怖い。危険も感じる。なんとか飛ぶことは様になってきたが、まだ闘えるとは思えない。

 魔法があって、魔物がいる世界だ。身を護る方法は必須だろう。そう言えば、コウモリはどうやって闘ってたんだろうか?


「え〜と、『ジャノメオウマルコ』さんは、どうやって闘ってたの?」

「おまえ、ケンカ売っとんのか! オレは『邪王炎殺黒龍』だよ!」

「難しいから『クロマル』さんね。それで、どうやって闘ってたの?」

「おい!? 一文字も合ってないよね!?」


 と言いつつ、クロマルーーなし崩し的に『クロマル』に決定したーーは自分の姿を確認する仕草を見せ、渋々納得したようだ。

 俺は相手に質問しつつ、実はそんなに回答を欲していなかったりする。質問した時点で満足したり、次の思考に移ったりしている傾向が強いのだ。この時も、龍の闘いに思いを馳せ、クロマルの言葉にはあまり注意を向けていなかった。


「闘ったことはない」

「……!?」


 しかし、クロマルの言葉に愕然となる。それって、強いか弱いかわからないんじゃ……!?


「誤解するなよ。オレはこの世界に対して悪意を持って破壊しようとする『ヨコシマナルオウ』を討つのが、役割なんだ。この世界で悪意を持って強くなりすぎた存在をいくらでも討ってきた。そのために特別な強い力を持っていたから、闘いにもならなかったという訳だ」


 なんか、そう聞くと凄そうだな。


「ただ、今のオレはこんなだし、おまえの力もどんかものかはわからない。おまえの身体は普通に人間のようだ。用心するに越したことはない」


 なるほど……。なんだか、浮かれ気分が収まる現実的な見解だな。




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