第2話 303号室

 俺の部屋は303号室だった。カードキーを差し込むとカシャっと音がして開く。俺はシャワーを浴びる元気もなく、ベッドに倒れ込む・・・予定だった。それ以外の展開なんてあり得るだろうか?

 しかし、ドアが開かない。寝ぼけて変な開け方をしてるのかと思ったが、押しても引いてもどうしても開かなかった。


 え?

 どういうことだよ?

 もう、カードで金払ってるのに・・・。


 廊下はお姉さんの喘ぎ声や、「すご~い」、「きもちいい!」なんてわざとらしい声が漏れ聞こえていた。お客はそういう反応を喜ぶんだろうか。俺には共感できないが、今はそれどころではない。


 俺は慌てて、予約メールを見た。

 お電話は夜10時までと書いてある。

 緊急受付先は書かれていない。


 無人の安さと便利さが裏目に出てしまった感じだ。しかも、俺がその貧乏籤を引くとは。


 もっと治安のいい地域ならいいのだが、治安最悪でしかも深夜だ。


 俺はしばし考えた。もう電車は止っている時間だ。とりあえずネットカフェとかに泊まるのがいいんだろうか。

 でも、怖いなと思う。コロナ禍でネットカフェの客層は以前と比べて悪くなっていると聞く。カプセルホテルに泊まるのが嫌で、この安ホテルにしたのに、どうしてさらに寝心地の悪いところに泊まらなくてはいけないんだろうか。


 俺はネットで検索を始めた。

 でも、眠くて頭が働かない。今からでも寝られるホテルに行った方がいいだろうか。それで、明日は会社に事情を話して午後半休にしてもらおうか・・・。今からホテルに移動したら、寝るのが2時くらいになってしまう。ラブホなんかに1人でチェックインしたら割高になってしまうし・・・。俺はなかなか決断できなかった。


 すると、ドアが開いて、大学生くらいの爽やかイケメンが廊下を覗いている。目が合ったが、俺は目をそらした。

「どうしたんですか?」イケメンが言う。

「いや・・・部屋に入れなくて」

 俺は窮状を打ち明けられる人が現れて、ちょっとほっとした。

「もう遅いし、よかったら僕の部屋のベッド使いますか?」

「え?」

 ゲイの人だろうか・・・。俺は判断力がない状態でも迷った。

「僕、FXをやってるんで夜中は寝ないんです。今ニューヨーク市場が開いてるんで・・・カチャカチャうるさいかもしれませんが。あと電気ついてますが。もう夜中だからどこ行っても断られますよ」

「いいんですか?助かります」

 俺は素直にその部屋に入った。地獄に仏という気持ちになってしまった。

 何で入ってしまったんだろう・・・。

 若くてイケメンだったから、いい人そうだと信用してしまったんだ。


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