無人ホテル

連喜

第1話 治安の悪い地域

 俺は先日、関西に出張した。勤務先の会社は都内にある。新幹線だったら日帰りできたけど、得意先の社長が退任前に食事をご馳走したいと言ってくれたので、むこうに宿泊することにした。翌日は午前中移動して、午後から出社するつもりだった。

 ホテルはできるだけ安いところにした。ホテル代が一律1万円支給されるから、安いところに泊まれば差額は俺のポケットマネーになる。さすがにカプセルホテルは寝られないから、取引先に近くて安いところを探した。


 その夜、社長は気前よく高級店な日本料理のに連れて行ってくれて、その後も高そうなクラブに誘ってくれた。美人ぞろいで過去一レベルが高かった。楽しかったけど、時計をチラチラみながら過ごしていた。やっと解放されたのは、深夜12時近かった。


 そこは無人ホテルなので、カード決済しておけば何時にチェックインしてもいいというのが魅力だった。女性だったら深夜の一人歩きは危ないと思うが、男だし、酒に酔って泥酔していない限りは問題ないだろうと思っていた。


「あんな治安の悪いところに宿を取らなくても、言うてくれたらよかったのに」

 社長に宿泊場所を尋ねられて、気になる反応をされた。

「いえ、でも、そういうところに泊まってみるのも、後々ネタになるかと思ったので」

 その宿はなんと1名3,000円だったんだ。7000円もらえる。それに、接待があっても食事手当を請求できる。


「客引きとかキャッチにつかまらないように気い付けな」

 地元の人でもそういうくらいだから、きっと治安は悪いんだろうと思った。都内で閑静な住宅街とオフィスの往復だけで生活していると、日本にも治安が悪い土地があるということを忘れてしまう。


 俺はビビりだから、キャッチに遭ったらどうしようと思いながら、速足で繁華街を抜けてホテルまで急いだ。夜中でも怪しい感じの人や、アジア人系の外国人、銀色の髪の毛の若者など、微妙な人たちが歩いていた。治安が悪いと思って歩いていると、余計に怖くなってしまった。別に街並みも特別汚いわけではないのだが、何となく薄汚れた感じがただよっていた。都内だと似たような場所はないのではないかと思う。駅からも割と近いし、幸い誰も話しかけて来なかった。多分、たまに犯罪に巻き込まれることがあるくらいだろう。


 普通のホテルだったら、ホテルのフロントの都合でチェックインは23時か24時までというところが多いと思う。でも、そこは深夜はホテルのスタッフもいないということで、完全に無人ということだった。コロナ禍がきっかけで、スタッフとの接触を減らしたいと思う客が増えているのとと、ホテル側の人件費の削減のためだろう。


 俺はフロントでチェックインして、カードキーを受け取った。入り口には防犯カメラが付いていた。エレベーターは暗証番号がいる。治安の悪い地域で、さらにスタッフ不在でもセキュリティは確保されているようだった。


 俺はハラハラしながら、部屋に向かった。もう遅いから廊下には誰もいないが、お姉さんの喘ぎ声が聞こえていた。多分、本業の人だと思うが、ようやくたどり着いてそんな感じだったからうんざりした。隣の部屋だったらどうやって苦情を言ったらいいんだろうか・・・やっぱり、安いだけのことはあると思った。


 




 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る