8:アオハルが不機嫌な話


 新学期が始まり、一週間が過ぎようとしていた。

ネオ「…」

 この生徒は、高波たかなみネオ。またの名をさら

 本校の新入生であり、首席であり、風紀委員である。

 周囲からの重圧や期待を背負いつつある彼女には、飛びきりの癒しがある。

新「…あっ!」

 彼女の視線の先にいる、マスクをつけた銀髪の男子生徒。

 幼馴染みの、月共つきともアオハルである。

 恋愛的な意味での癒しではなく、容姿や声が癒しであり、特にその声が好みなのだ。(本人の主張)

 丁度本日も、まだ馴染んでいない環境や委員会の仕事で疲れていたため、彼女は癒しを求めていた。

新「せ~んぱ~い!」

 小走り気味で歩み寄る。

アオハル「ん…」

 新の方をみて、手を上げ挨拶をする。

新「お疲れっす!」

アオハル「ん……」

 コクりと頷く。

新「せんぱぁい!今日ウチ超頑張ったんすよ~!だから~…今日も先輩の美声で癒してほしいっす~!」

 まるで尻尾をブンブン振り回している犬のようにねだる。

 だが、彼から返された言葉は…


アオハル「ごめん…今無理……」


新「…え?」

 普段よりも低く、荒れたような声で拒否される。追い討ちを掛けるように…

アオハル「つか、ちと離れて…」

新「……えぇ?」

 そう言ってスタスタとどこかに去っていった。

新「……」

 呆然と立ち尽くす新。

新「せ…先輩に…嫌われたぁ……」

 そう言って、膝から崩れ落ちる。



 数分後、新はアオハルの教室へ向かった。

新「失礼します…」

 教室は静かでいなく、目的のアオハルはいないようだ。

優愛ゆめ「あれ~、ね…じゃなかった…さら~…どったの~……」

光樹みつき「優愛さん?そろそろ離れないかしら…」

 アオハルの幼馴染みが新に答える。

新「あの、先輩は…」

優愛「…」

光樹「あ…」

新「?」

 優愛が明らかにしょんぼりとする。

光樹「実は今日…優愛さんがアオハルくんに抱きつこうとしたのだけど…」

新(距離感バグってる。)

 という率直な感想は口に出さずに聞く。

優愛「…『やめて』って、言われた……」

新「えっ、姫原ひめはら先輩達も?」

 その言葉に、「え?」と反応する二人。

新「実は私も…」

 と、先ほどの出来事を話す。

光樹「うぅん…何か嫌なことあったのかしら…」

新「先輩に嫌われたら、私…ウチ生きていけないっす~…」

 と、へなへなになる新。

光樹「そんなオーバーな…」

優愛「光樹は私とかアオハルに『話しかけるな』とか言われたらどう思う~?」

光樹「…」

優愛「あーごめんごめん。冗談だから…言わないからそんなこと…」

 うっすら涙を浮かべる光樹にすぐさま謝罪する。

優愛「アオハルは嫌なことしたら~…嫌だって言うタイプだから~…あからさまに嫌うとかないのに~…」

新「先輩~…」

 と言いながら、スマホとイヤホンを取り出し、何かを聞き始める。

新「うぅ…うぅ…えへへ…」

光樹「なに聞いてるのかしら…」

優愛「ん~」

 片方のイヤホンを取り耳に当てる。そこから流れてくるのは、

高波こうは…』

『お疲れ様。良く頑張ったな。』

『会いたかったぞ。』

『今度遊べるか?』

 というアオハルの声。

優愛「うぉえ…」

光樹「何かし…うぅっ……」

 二人揃って気分が悪くなる。

新「えぇ!?」

 と、驚愕する新。


新「あれ?そういえばほかの皆様は…」

優愛「ん~…歩乃日ほのかはアオハルの塩対応でガチ萎え。静玖しずくアオハルの席そこで死んでる。」

新「いたんですか!?」

 指の指された方向をみると、静玖が机に突っ伏している。

光樹「羽歌わかくんも自分の席で死んでるわ。」

新「え、いたんですか!?」

光樹「他のクラスメイト達もそんな感じね。」

新「うわぁっ!?え、うそ、いなかったですよね!?」

 過半数の生徒が突っ伏していた。

優愛「みんな同じ感じ…」

新「えぇ…」

 すると、一人の生徒が口を開く。

「普段の…つきっちは…」


アオハル『え?放課後にカラオケ?仕方ないなぁ、そんなにオレのイケヴォが聞きた…行く行く行きます。待って、何人かに伝えとかないといけないから。』


「って、感じなんだが…今日カラオケに誘ったら…」


アオハル『…あ゛ぁ~…わりぃ、むり。』


「って…すげぇ嫌そうにされた…」

新(今の回想はどこから…)

 その生徒はそのまま「あんなやつの為に精神的ダメージくらったり心労を抱えるのなんて屈辱だぁ」と言って再び突っ伏した。

光樹「アオハルくんの塩対応でみんなやられたみたいね…」

新「うぅん…」

 そして今度は、廊下から一人の生徒が入ってくる。

幸舞ゆきま「アオハルは…いる、かな…?」

新「え、王子様(笑)?」

 少し暗い雰囲気の幸舞だ。

幸舞「実は「先輩に嫌われた?」…うん。良くわかったね。」

光樹「そういうの以外に他にテンション下げることないでしょう。」

新「というかみんなそうなので。」

幸舞「そう、か…」

新「ちなみにどんな感じで?」

 と新が問いかける。幸舞は空しそうな表情で

幸舞「ハグをしようとしたらやめろと言われたり、口説いても邪険な顔をされたり…」

新「え、それはいつもでは?」

優愛「幸舞はそうだね~…」

幸舞「え。」

 しばしの沈黙。

幸舞「あぁ、もしも彼に嫌われたら僕は「それやった。」…。」

 しばしの沈黙その2。

幸舞「体調が悪いのかと思って保健室にいったが、歩乃日はいたけど…アオハルは見なかったな…」

新「えぇ~…」

 皆の精神がどんどん下がり暗い雰囲気となるなか、明るい声が教室に響く。

水治みはる「お兄ちゃんいますかぁ!」

 アオハルの妹である。

幸舞「水治っ…!」

 と、水治さんにすがり付くような食い付きを見せる学校の王子様(笑)。

幸舞「アオハルに嫌われてしまったのだけれど…どうすればいいかな…」

水治「え?あーなるほど…」

 教室を見渡し、状況を察する。

幸舞「何かしてしまったなら謝るし、困っているなら力になるから…」

水治「うぅんっと、待ってくださいね?」

 と、取り乱しかける王子様(笑)を宥める。この人この癖治ってなかったんだ。

水治「お兄ちゃんは…」

 一同が水治さんの言葉に集中する。水治さんが打ち明けた真実は…

水治「お兄ちゃん今風邪です。」

「「……」」

幸舞「え?」

新「え?」

水治「どこかから貰ってきたみたいで。特に喉の調子が悪いみたいであまりしゃべれない感じですね。」

幸舞「そ、そうか。」

水治「あまり移したくないから距離を取った感じですね!」

静玖「…それ休めばいいんじゃ……」

 と、倒れていた静玖先輩が指摘する。それに続き羽歌先輩も

羽歌「悪化しないように…」

水治「あー、それは…」

 

水治「皆勤賞逃したくないだそうで。」

「「……」」


水治「…」

「「…」」


「「あ゛ァ!?」」


 クラスの人達がキレる。羽歌先輩、静玖先輩、光樹先輩、王子様(笑)はまだ落ち着いているが、優愛先輩は少しキレ気味だ。

「あのナルシストどこ行った!!」

「とっちめてやる!」

「恋愛対象じゃないくせに良くも乙女の心を傷付けたな!?」

 みんなまぁキレている。

 が、どこか安心しているような表情をしており、同時にその怒りの矛先が、無理して登校した彼に向けられているような気がする。

新(……。)

 そんなクラスを見て、なんだか不思議な気持ちになりました。

羽歌「よかった…あーくんに嫌われたんじゃなくて…」

静玖「あ、くたばってる歩乃日にも伝えなきゃ…」

幸舞「あぁ、ファンクラブのみんなに出動しなくていいよって伝えなきゃ。」

光樹「え。」

優愛「どこ行ったアオハル~…!」


水治「…」

水治(まぁ本当は…)



蒼華あおか『アオくん、今日は休んだ方が…』

アオハル『い゛ぐ…ごほっ…えほっ…』

水治『声ひどいよ~…寂しいならお姉ちゃん置いとくから…』

蒼華『えっ…まぁ、もちろんいいけど。』

アオハル『ぢがう…ざびじぃ、のも…だげど…』

『『?』』


アオハル『み゛んな゛に…あ゛いだい……がら゛……』



水治(……)


水治「歩乃日おさななじみさんに移したくないから保健室にも行かないのにさ…ふふっ。」

 ちょっとだけ、水治は心のなかで「優しくてわがままなお兄ちゃんなんだから…」と呟いた。それと同時に「大好きだよ」と声に出して叫んだ。



 3年教室

アオハル「ごめん姉さん、家に薬忘れちまった…」

蒼華「うん大丈夫だよ!喉はどう?」

アオハル「大分良くなった…けどなんか寒気がする。」

蒼華「えっ!?大丈夫?」

アオハル「うん…そういうのじゃないみたい……多分熱烈なファンに命を狙われ「アオハルくん風邪~?」待って、え、話してんだけど。」

先輩2「えっと~、はい!龍爆散のど飴あげる!」

アオハル「…ありがと。」

先輩2「いいよいいよ~。いつもお世話になってるから~」

アオハル「お世話?」

先輩「あぁ気にしなくていいよ。あ、替えのマスクとかいる?」

アオハル「貰うっす…」

 とやり取りする三人に蒼華は何を思ったのか焦りながら

蒼華「アオくんはあげないよ!?」

先輩「いらんよこんなの。」

先輩2「間に合ってる。」

蒼華「そっかー!」

アオハル「知ってるか風邪とかの時ってメンタル弱くなんだぞ。」


 そんなやり取りをしていると、アオハルに声がかけられる。

???「あ、ああ、アオハル様!」

アオハル「ん?おぉ…どうした。」

???「お風邪の具合は…」

アオハル「あぁ、悪いな。特に今朝は…」

???「いえ!知ってましたので!」

((なんで知ってたんだろう。))

???「もし悪化しているようなら、我が家のかかりつけ医に連絡いたしますか?」

アオハル「いや、治ってきてるよ。」

???「そ、そうですか……って、それは喜ばしいことですね!」

先輩「ストーカーちゃん、本音隠せてないよ。」

???「す、ストーカーではないです!あと本音です!」


 と、グイグイくるの美少女は…?

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