第2話 <アリエナイ再会>転職初日~会社~

 カツカツカツカツ


 あなたね、今日からここに・・・・

 ん?あなた・・・・えっ?

 えぇっ?!

 そんな、まさか、こんなことって・・・・


 コホン


 ちょっと。

 ちょっと、こっちに来て。いいからっ!


 ズルズルズル


 いいこと?

 昨日のことは、いえ、昨夜から今朝にかけてのことは、他言無用よ。

 私会社ここでは『下戸』で通してるの。酔うとほら・・・・ね、アレだから。

 だから絶対、誰にも言わないで。

 もし、誰かに話したりすれば、それは個人情報の漏洩、または名誉毀損にあたるわよ。

 場合によっては、法的手段に訴えることも有り得るから。

 迷惑かけてしまって申し訳ないとは思ってるけど、それはそれ、これはこれ。

 容赦はしないから。いいわね?

 じゃあ、席に戻りましょうか。

 早速仕事、してもらうから。


 さて、と。

 あなたにやってもらう仕事は・・・・

 ああ、まずは自己紹介から。

 ・・・・名前はまだ、言ってなかったわよね?一応、連絡先のメモに名前は書いておいたけど・・・・まぁ、いいわ。

 あらためまして。

 私は、冷泉れいぜん透子とうこ。これから一年、先輩としてあなたの指導にあたります。分からないことは、私に聞いて。よろしくね。

 ・・・・最初に言っておいた方がいいわね。

 私、陰では『冷凍庫』って呼ばれているのよ。別にそんな気は無いのだけど、冷たいみたいなのよね、私。それこそ、その場の空気が凍りつくくらい。

 でも、気にしなくていいから。

 それが私のデフォルト。

 大丈夫、あなたもすぐに馴れるわ。


 あなたは・・・・温井ぬくいあきら、くん、ね。

 ・・・・ふざけてるのかしら?

 いえ、あなたではなく、人事の採用担当に言ったのよ。

 よりによって、うちに配属するなんて。おまけに、私の下につけるなんて。課長もどうかしてるわ・・・・いえ、気にしないで。ただの独り言よ。

 あなたが名前だけで採用されて、ここに配属されたのでなければいいのだけれど。

 はい、これマニュアルね。

 私ちょっと隣の部署に資料を届けてくるから、その間に目を通しておいてもらえるかしら。


 カツカツカツカツ・・・・


 ・・・・カツカツカツカツ


 お待たせしてしまって、ごめんなさいね。

 数カ所資料の確認が入ってしまって。

 では、さっそくやってみましょうか。

 ・・・・はっ?

 あなた、私が資料届けに行ってからここに戻って来るまでの間、一体何をしていたの?

 私、マニュアルに目を通しておくように、言ったわよね?

 パラパラとは、見た?

 ・・・・マニュアルは、雑誌じゃないのよ?バラパラと見るものではないと思うけど。

 で?

 パラパラと見たあとは、何を?

 ただ、私が戻って来るのを待っていた、と。

 はぁ・・・・いい?

 今は休憩時間じゃないのよ、勤務時間。

 今こうしてあなたが何にもしていなかった、まるで生産性の無い時間にも、お給料は発生しているの。わかる?

 わかったのなら、今後は勤務時間中は1秒も無駄にしないでちょうだい。

 で?

 パラパラと、どこまで読んだの?

 ・・・・これだけ?

 もしかしてあなたは、マニュアルをしっかり読み込んでから実行するよりも、まず実行してつまずいてから、マニュアルを読むタイプかしら?

 まぁ、いいわ。

 じゃあ、やってみて。

 あなたのやり方で。


 ちがう。

 なぜそうなるの?

 初めてだからわからない?

 なるほど、そうよね。

 ・・・・とでも、言うと思った?

 分からないなら、何故私に聞かないの?何故マニュアルを確認しないの?

 間違ったまま進めてしまったものを、後から修正するには、倍以上の時間と労力が必要になるの。新社会人でもあるまいし、それくらい分かるでしょう?

 分からないことを聞くのは、恥ずかしいことでもなんでもないのよ。カッコつけていないで、ちゃんと聞きなさい。


 ピピピッ


 あら、もう定時ね。

 じゃ、今日はここまで。お疲れさまでした。

 ・・・・なに?

 悪いけど、私は残業はしない主義なの。

 質問があるなら明日にして。


 カツカツカツカツ・・・・

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