年長者は泥をかぶる


ブラッティシェイカーこと「ブラシェ」くんが海を見たいと騒ぎだしたので海に行くことになった。

色々予定が立て込んだりで8月最終日、駆け込み海水浴である。


メンバーは「姫」「ブラシェ」「ニラパセリ」で私と四人。

東京から行ける距離、そして8月最終日まで入れる海水浴場として千葉県の九十九里浜が選定された。

車で二時間ほどの距離だ。


姫もブラシェも二十歳そこらの若者であり、ちゃんと海というイベントを経験してもらいたいなと年上としての矜持と老婆心を抱いた。

海に遊びに行く、大変青春らしいことである。

当日の朝からスポドリを冷やし、スイカを割ろうかと思ったが玉で売ってなかったのでカットしたものをジップロックに用意した。

車も用意してある。


そして。

私は昼過ぎても、まだ家にいた。

三人とも起きてこないのである。

まともに起床できる人間がこんな生活してるわけないのだ。


流石に夜の海に飛び込ませるわけにも行かないため、みんなを叩き起こして車を飛ばす。

海水浴場閉場の30分前に滑り込んだ。

こんな時間から来ることは想定されておらず駐車場の受付は無人だった。


海へと駆け出すブラシェ君。

そんな背に転ぶなよと声をかけレジャーシートを敷く。

当方良い大人なのでビーチサンダルも水着も持ってきておらず、着替えの用意も万全ではない状況では、足を水につけることもしないのだ。


姫はデケェ猫なので水に濡れることを極端に嫌がり、遠巻きに海を見ていた。

そんな姫と砂浜の貝殻でも拾っていこうと思った。


5分後。

海の中に私は居た。

引きの強い波に身を委ね、柔らかな砂に手を付き、口の中の潮気を吐き出す。

誘惑に負けた私は波へと飛び込んでいた。

久しぶりの海でテンションが上がっていたのだ。

この場にいる誰よりも年上の私が、この場にいる誰よりも海を楽しんでいた。


適切なタイミングで適切に楽しむことが出来る。

それが大人なのだ。

大人ぶるって大人しくじゃなく、水着になってモデル立ちをキメることだって有栖川夏葉も言っとった。


そして帰ってから泣きながら砂まみれの服をベランダで洗濯した。

水着ではないのであらゆる場所に砂が入り込んでいた。

適切な場所で適切に砂を捨てることが出来る。

それが大人なのだ。




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