アントサパー
北緒りお
アントサパー
繊細で細長く、透明な流れに似た淡い密度がとぎれなく先端を揺らし、体の奥までその香りと要素を伝えていく。宮殿は香草の奥深くに浸食し、管が先にあったのかそれとも網のように広がる鋭い顎の跡がその主なのか今となっては溶けゆく感覚になっている。薄い皮に包まれた群衆に指先が届くまで見つけなければならない。
微量の油が太陽と湿度とナトリウムの気配の中にかすんでいる。床に散らばる光の針が、切り取ったような葉脈と薄肉の線をまねしている。
赤く色づく種の包容を期待して、繊維と有機物を皿に受け、水とグリコースを与えようとしていたのに、三つの節が寝殿とし、固くしまっているはずだった粒子の累積が綿毛のような頼りなさになっていたのだった。
すでに節と表面張力の力関係は落ち着いていて、細胞壁の中は乾き始めていた。気まぐれに差していた香草の壁は水にあふれ、忘れた頃に満たしていたのにも関わらず、膨らみ、伸び、枝分かれしていたのだった。その色が不自然である頃を過ぎて、当たり前の中になじみ始めた頃に、縁と言わず面と言わず、細い足が闊歩するようになったのだった。
諦念と展望と推測がいくつかの響きになり「その管はすべてをのばし直すに掌のようにまとめた息吹を沈めよう」と揺れた。
悠然とした気体の積層といくつもの振動の入り混じりが私の手元だけでなくすべてを満たす。産毛と蜜の根元を持ち上げたとき、その先に構造を保ちながら未熟な生命と分解の細指が見え隠れしたのだった。
それは花束の名残を手のひらと腕の環状線に似た牢獄の草原に差しておいたのだった。人間が介在しない工業主義を彷彿とさせ、天井に群のようになっている薄膜の整列や小さくゆっくりとうごめく稚群に奪われていくのだった。
その予感は「水の流れと空気の押し出しと窒素の補充を手がけて」とされていたときから手元の箱に転がり続けていた。
香草があけた穴は地層であり、視界を隔たる硝子であった。その点にも満たないようなつま先からほのかに香り立つ言葉が群衆を導き、そして奥深くに続く迷宮を作っていくのであった。その凛とした整然と、粗野なうごめきの波に歯車の集まりをみるような心地よさを感じていた。
心を持って行かれたままでは、淡い緑の広がりも柔らかくそよぐ有機物の名残もすべてが静かに固まるままになってしまう。
直感と視界で測る沈み方で全知であると思い違いをし、そして偶然の一致を見た。泥沼のような時間を素手で乗り越え、そしてブラシと流体がグラスの中で出会うような瞬間を過ぎた頃だ。山ができ、その頂は重さを失い、色が抜け、その上にはいくつもの雑踏が置き去りにされていたのだった。構造はすべて無作為の堆積になったはずだったが、こちらの思慮が届かない時間で組み直されていたのだった。
その構築に肉体から施していくしかないのだった。
すべては実証と理論と厳密な検証によりざわめく必然はないのだが、奥底のかすかな揺れに気付いてからというもの、原始と既知の味覚を粒の一つひとつが隣り合うようにし、雑踏の気配に並ぶように山を作るとある。
悲しき餌食は、その作用でまるで炭酸の気泡がグラスの中で立ち上がりそして消えていくように、静かな時限装置となり、音もしないで破裂する。
脆弱の摺り足に気付かないでいると、陰湿な執着心で繊細な弁膜の動きがはじける。
ドライアイスのように冷徹な存在ではなく、さも何もないかのような表情で置かれている。小さな雪山が、蠕動流れに乗るりがりくねった深部にたどり着き音もせずに膨脹し、顕微鏡の世界である奥底は破片となる。
反射は水晶に届かない。皺の奥に伝わる電界の変異のみがその瞬間を切り取り見せていた。
「氷菓の目隠しに頂を広げて夜露に出会わせる」
月面に見えるのは数分前の分裂の真美で、角膜が受け止めてないだけで揺らぎも収縮もあるはずだ。薬品の反応を流れに変え淡いオレンジ色になる。節と線の主はその山にとけ込み、地層となり、琥珀に入り込んだ遺跡となっていた。
霞の奥に見え隠れする明かりの正体はゆっくりと水平線から顔を出してくる。隊列は山と塹壕のような寝床のあいだを結び、透き通った白い結晶が運ばれていく。
群がり、うろつき、この内燃の元を他の者に伝えるために言葉をすり付け、一つの触手となっている。
小さじに乗る程度のささやかな幻想が悪寒を呼ぶ。その深く重い色の袋が霧のように消え去る。
その独立独歩の微細なる共同体は増殖しつづけるという暗示に従い続けているのに、その結果は霧散するとは。
それぞれが独行しているようで、敢然たる調律が行われており、正弦波を思わせる無味無臭たる完全を思わせる。そして、その歩みと繰り返しは霧散になる。
献身が手足を持ち、よどみなく前のめりのままで過ぎている。その悲哀に気づけるはずもなく、霧の後先が流れる頃にはすべてのたくらみが制止している後のことだ。
アントサパー 北緒りお @kitaorio
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