第19話

「ごめんなさい」

と言った私に健ちゃんは

「ずっと様子がおかしかったよね」

「俺の事、嫌いになった?」

私はうつむいたまま小さな声で

「嫌いじゃないよ」

「でも、健ちゃんより好きな人がいる」

言ってしまった。

「そっか。そうだったんだ」

沈黙‥‥‥

「俺と別れたいの?」

小さく頭を縦に振った。

「俺さ、恵理ちゃんとの将来を考えてた」

「結婚したいと思ってた」

「話しを聞いた今でも気持ちは変わらない」

正直嬉しかった。

でも、自分の気持ちを言ってしまったからには

もう後には引き返せない。

「ありがと。でも、ごめんなさい」

頬を涙が流れる。

少し時間が欲しいと言われ、その日は

そのまま帰った。

健ちゃんが結婚まで考えてたなんて

想像もしてなかった。

彼の気持ちを考えると胸が締め付けられ

有ちゃんに連絡する事すらためらわれた。

次の日会社に行くと、健ちゃんの姿がない。

始業の鐘が鳴っても。

朝礼で課長が

「本日、鈴木君は体調不良で休みです」

体調不良なんて嘘に決まってる。

無遅刻・無欠席の彼が休むなんて‥

罪悪感でいっぱいになった。

LINEで様子を伺うか迷ったが、やめた。

彼からも連絡はなかった。

健ちゃんは次の日も休みだった。

水曜日にやっと出社して来た彼は

帰りに会いたいと言って来た。

駅近くの居酒屋で待ち合わせ。

「ずっと真剣に考えてた」

「やっぱり別れたくない」

彼の答えだった。

曖昧な態度はやめようと誓っていた私は

「本当に申し訳ないけど、健ちゃんに

気持ちが残ってない」

と硬い表情で言った。





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