第15話 この先のこと

電話を終えたナミは、再びキッチンに立った。


(お弁当を作らなくちゃ)


 スイピーに働きに出るときは、必ずお昼ご飯を持って行くようにしている。お店の近くにはいくつか飲食店もあるが、そこに毎日通い続けていたら家計の負担になってしまうからだ。


「何もないんだった……」


 しかし冷蔵庫を開けてみると、食材が少なくて作れるものがなかった。よく考えてみれば、昨夜もあり合わせのものでサンドイッチを作ったのだ。なくて当然である。


(今日は、外食かな……)


 ナミは流し台に腰をくっつけて体重を預けると、腕組みをして長くため息をついた。


(まあ、たまにはいいか)


 女性の社会進出は少しずつ進んではいたが、シュキラはルピアよりもかなり遅れていた。


 ルピアでは、百貨店などの店員に女性が起用されているようだが、シュキラでは「女が化粧をして行きかう男に媚を売って商売するのは醜いことだ」という風潮が強く、未だに店の前に女性が立つことがあまり良しとされていない。


 そのためララが女性店主として、店舗を構え仕事をしているというのは凄いことだった。彼女の魅惑的なスタイルに値付けが甘くなる男たちもいるが、その逆もある。


 だがララは物怖じしない。

 自分の意見を堂々と言い、自分が店を運営していることを誇りに思っている。


 そして彼女がきちんと給料を払ってくれているお陰で、ナミの一人暮らしができている。針子の仕事を続けていたら絶対できなかった。


(ユイカのこと、どうしよう……)


 ユイカはいつまでここにいるのだろうか。


 ナミにとってそれが気がかりだった。彼女としては、いつまでもユイカの面倒を見てあげたい。彼がここにいれば、いつかユイルとも会えるだろうとも思った。


 しかし生活が問題である。ナミ一人でなら今まで通り何とかなる。しかし、ユイカを抱えて生活していけるだろうか。


(やっぱりお母さんに、言った方がいいのかな……)


 ナミはぼんやりと母親の姿を思い出すが、すぐさま首を横に振った。


 彼女に相談したら、ナミが求めているような答えは返ってこないだろう。そもそもクレリックからユイルのことは言うなと口止めされている。


 息子のことを言ったら間違いなくユイルのことを聞かれてしまうだろう。叔父の約束は守らなければならない。


(とにかく、ララさんに相談しよう)


 そう思ったとき、脱衣所の扉が開いてユイカがとことことリビングの方に戻って来た。


「あの、ナミさん。お風呂ありがとうございました」


 すっきりとした顔をしているユイカを見て、ナミは微笑ほほえんだ。


「いいえ、どういたしまして」


 すると、彼のブロンドの髪からぽたぽたと水がしたたっていたのに気が付いた。


「髪をかわかそうね。ユイカ、おいで」


 二人は再び脱衣所に向かった。

 ナミは、ドライヤーをコンセントにつなぐと、ユイカを洗面台の鏡の前に立たせて彼の髪を乾かし始めた。


(さらさらな髪ね……)


 ナミはユイカの髪を乾かしながら、手にした髪がドライヤーの風をあびて、するすると逃れていくさまを感じながら、そんなことを思った。

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