第6話 消息

 ナミの元にクレリックが現れてからというもの、彼女は仕事が終わるたびにユイルを探しにシュキラの町を歩いていた。


 休日も朝から晩まで、自転車を駆使しながら探し続ける。坂と階段の多いこの町で、自転車を使うのは良いことばかりではなかったが、走る体力のないナミにとって、それを使えば歩くよりも早く目的地に着くことができるのだった。


 ナミははじめ、ユイルがどこかに宿泊しているのではないかと思い、近場にあるいくつかのホテルを周ってみた。それは叔父がわざわざシュキラに来て彼を探していたからである。ユイルは実家と疎遠になっているし、こちらにはあまり友人はいない。


「ユイル・イルクラナス様ですか?」

「はい。こちらのホテルに泊まっていませんか?」


 ナミはホテルのフロントで尋ねるが、受付嬢はリストのすべてに目を通してから首を横に振った。


「申し訳ありません。イルクラナス様という方は、ご宿泊されておりません」

「……そうですか」


 ナミはその問答を別のホテルに行くたびに繰り返したが、「ユイル・イルクラナス」はどこにも泊まっていなかった。


(ホテルにはいない、か……)


 ナミは、ホテルのラウンジにあるゆったりと座れる椅子に腰を下ろして、ふうとため息をつく。どうして見つからないのだろうと考えたとき、ふとあることを思いついた。


(もしかして、偽名を使ってる?)


 クレリックは、ユイルと関わるのは危険だからやめろと言った。つまりユイルは身を隠さなければいけない状況にいるということだだろう。だが、たとえ偽名を使っていたとしても、使っている偽名が分からなければ意味がない。


 ユイルはもしかしたらホテルにいるかもしれないが、もしそうだとしても偽名を使われていたらナミにはユイルがいるかどうか分からない。


 それ故にナミは考えた末、これ以上ホテルを探すのは諦めた。


 次に彼女は公園と空き家を回った。


 公園は、シュキラの町のなかに小さな広場も含めると二十近くある。彼女は地図を見ながら一つひとつ見ていった。周辺にある八件ほどを見てみたが、ここにも彼の姿はなかった。


 また空き家の方は、目的の公園に行くまでに見つけたところをのぞいたり、ときには中まで入ったりして確認をした。


 シュキラには、管理されていない空き家が多くある。


 この町から隣街のルピアに移る際に、そのままの状態で行ってしまう人が多いのだ。よって犯罪の巣窟になっているとも言われており、女性一人で回っているナミにとって、危険なことであったがそれでもユイルを探したい思いが強かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る