エルフエナジー 詭弁師の陰謀

たけのこ

第一話 詭弁師の陰謀

イーサム王国の首相官邸執務室で、ケーター首相は各官庁から送られてくる決裁伺い書類に、ろくに目を通さず、機械的に押し印をした。イーサム国王行きの伝書箱の中に叩きつけるように入れた。


イスを回転させ窓から映る王宮に目を遣った。王宮に続く水道橋に一台の推力浮遊型自動車が走っているのが見えた。双眼鏡を取り出してみると、王立科学アカデミーの紋章が付いた車だ。ラマズド科学技術長官がイーサム王に呼ばれたのだろう。


城門兵が搭乗者のIDを確認し可動式の橋が城門にかかった。車はゆっくりと城門をに抜けて城内に入っていった。


ケーター首相は双眼鏡を置き、甲高い笑い声を上げながら、ブラインドのスイッチを押し、王宮を視界からかき消した。首相執務室は周囲が水のカーテンで覆われている。ブライドのスイッチを押すと水が流れ落る。水のせせらぎは精神を落ち着かせる効果があり、様々な決断を冷静に行う事ができる。水受けには水生植物が生えて自然感あふれる執務室はケーターのお気に入りの職場だった。建築家が「水ガメ」をイメージして造ったのだった。


「水ガメ」とは王宮の事を愛称でよんでいる。王宮はサンド家が攻めてきても守れるように、古代湖の島に佇んでいる。王宮の背後には高い山脈に囲まれており、岩壁から大小の滝が幾つもの線を描きながら古代湖を潤し続けいる。


扉からノック音がした。


「誰だね」


「ラマーです。失礼します」


「どうしたラマー秘書官」


「イーサム王から召喚命令がありました。登城の準備をお願いします」


「分った」


イーサム王に口うるさい注文を突きつけられると思うと、憂鬱な気持ちになりながら、ラマー秘書官が用意した車に乗り込み、TVモニターの電源をつけた。


「次のニュースです。首相官邸の発表によると、数日前から元エルフ精鋭隊のスメラ首相秘書官が行方不明になり魔物に襲われた可能性があると発表しました。スメラ秘書官は10日前出勤した後、関係者からの連絡が付かず、家族が行方不明届を治安部隊に出していました。治安部隊は、スメラ秘書官が所有する車が郊外で発見された事から、頻発する魔物によって襲われたものとして調べを進めているとしました。遺体は見つかっておらず、引き続き捜索するとのことです。ケーター首相は談話を発表しました。スメラ秘書官は仕事も真面目にこなし、正義感あふれ、行方不明になり大変心を痛めています。彼の無事を願っていましたが消息が付かない事に深い悲しみを感じています。最近、エルフバリアの効力低下より、魔物が人気のないところで頻発しています。魔物討伐が市中で流行っているそうですが、素人での討伐は大変危険でありますので近づかないように、見かけたら治安部隊に連絡をお願いしますと、首相は市民に注意喚起を呼びかけました」


「フフフ、私の詭弁も上達したものだ。スメラ秘書官は今頃どうしているかね」


「スメラ秘書官は、地下放置致しました。そこは旧坑道であり迷宮化しております。今頃、野垂れ死にしているか、地下に住む魔物の餌食になっていると思われます」


「そうか、あの時はマラーに助けられた。感謝する」


「勿体ないお言葉でございます。マラー家はケーター伯爵に多大な恩恵を与えて頂きました。このマラー家が存在するのも、ケーター家のお蔭でございますから、ケーター様を危険から御守りする事は私の使命でございます」


「私はスメラ秘書官の机上に国王宛ての直訴状を偶然見つけたのだ。そしたら、背後からスメラ秘書官の強烈な足蹴りで頭部を殴られ気絶したが、マラーがショックガンでスメラを気絶させたんだよな」


「はい、その通りでございます」


「スメラで何人目だ。私を裏切った者は」


「スメラ含めて10名でございます。彼らは失踪という形で処理されております」


「そうか、余り派手にやりすぎると、私に疑いの目を向けられるのも困るな、少し控えるとするか」


「ケーター様、最近筋肉質になられたような気がします。スーツがパツパツになってございます。新しいものに新調されますか」


「そうだな。私が筋肉質になったのはエルフエナジーを照射したからだ。私は自分の身体は自分で護らないといけないと思い、ラマズドとエルフ精鋭隊のプログラムを確認した。エルフ精鋭隊はエルフ照射室というサウナー部屋に入り、一定時間の照射を繰り返して、体細胞を活性化させる事で運動能力を格段に向上していた。照射をする事で、剣、斧、ムチ、ショットガンを持つと自分の感情のエネルギーが武器に加わり、攻撃能力が格段とアップするとは驚いた。人の感情エネルギーは莫大だかなこれを応用したのだろう」


「畏れ多くも、エルフ精鋭隊にマラー家も苦しめられました」


「私は師範に訓練を受け、身体能力はエフル精鋭隊のラッセル大尉と劣らないくらいに成長した。その茶封筒に入っているのはスメラの直訴状だ。書類には私の計画が詳細に書かれている。おまけに、このUSBにはサンド帝王閣下と電話で話している録音データーが入っていた。スメラ、小賢こざかしい真似をしょって!」


ケーターは書類を何度も何度もちぎり、紙吹雪を作って車内に舞わした。

靴で勢いよく、茶封筒の中にあるUSBを踏み壊した。


「ケーター様、落ち着いて下さい。ここは車の中です。車が壊れます」


「マラー秘書官、私を裏切ろうとする者がいれば直ぐに報告するように」


「かしこまりました」


首相の乗せた車は、王宮の車寄席に到着した。廊下を歩くと、近衛兵が不動明王のように威厳を保ち立っている。懇談の間には、ラマズド科学技術長官とジン博士、エルフ精鋭隊のラッセル大尉が座っていた。


「これは、ジン博士ではないですか、ご無沙汰しております」


ケーターは握手をしょうと手を差し伸べたが、ジン博士は応じなかった。私が王立科学アカデミーの組織をラマズドと改変した事に腹を立てているのに違いないと思った。ジン博士の紳士的でない対応にケーターは不愉快には思うも、表情には出さず

平然を保った。


隣の席に座っているラマズドへ小言で耳打ちをした。


「例の、アレは順調に育っているか」


「もちろんです。保育器の中で日を追うごとに育っています。私の権限と屁理屈でジン博士も立ち入りを禁じていますから、ご安心ください」


「そうか、それはよかった」


「イーサム国王陛下がお出にあそばされます。一同、起立、敬礼」


ケーター達は頭を下げて深くお辞儀をした。儀じょう隊のファンファーレが鳴り、

大きな観音扉が開いた。国王行進曲が流れる中、側近が儀式の杖と書類、王印を携え近衛兵に護れながら、イーサム王がゆっくりと円卓にある玉座に着席した。


「一同、表を上げて着席」


ケーター達は顔を上げて着席した。


イーサム国王は儀式の杖を強く床に一回叩いた。


「これより、臨時の会議を行う」


近衛兵は背筋を伸ばし歩調を合わせながら扉の外に出ていった。


「私が君たちを召喚しょうかんしたのは王研の件についてだ。ジン博士から報告を受けて懸念を感じた。ジン博士、報告を」


「国王陛下、最近、私も立ち入りが制限されている特別研究区域で、倫理に反するような生物実験を帝国生物研究所の研究員達が行っているのではないか、という噂が後を絶たない。毎晩、不気味な魔物のうめき声が聞こえて気色悪いと研究員達を怖がらせている。ケーター首相は魔物達にエルフエナジーを照射する実験を推し進めているが、エルフエナジーを照射する事で魔物の特性をより強化する。我が国防装置エルフバリアの効果により、心を持たない攻撃心のある魔物はそれによって自然分解されている。しかし、この照射により耐性をもつモンスターが出現する事に大きな懸念を抱いている。【遺伝改変を行った生物にエルフエナジーを照射した際の有意性と危険性】をここに提示します。生物にエルフエナジーを照射した場合としてない場合の比較検討を示すが」


「ジン博士、ジン博士、話を割るようだが、畏れ多くも、国王陛下もケーター首相も科学については素人であるから、論文を説明するのはナンセンスであります。国王陛下、私はゲノム編集に於いては名の知れた技術者でございます。家政婦用のモンスターを提供してきておりますが、市民から苦情は一切ございません。家族の一員として可愛がれております。お年寄りには癒しの効果もあり、認知力の向上の効果もあり貢献しております。特別区域ではコミュニケーションがとれるモンスターの制作のためにエルフエナジーを用いて実験をしております。現在のモンスターは主の命令には従い、簡単な言葉を発します。エルフエナジーを照射する事で人間と同じように言葉の意味を理解し多種多様な表現ができればと思っています。私はエルフエナジーについては全く素人ですので、ジン博士の研究棟に私は礼儀として立ち入っておりません。よって、王研の基礎を築かれたジン博士でも、特別研究区域への立ち入りはご遠慮いただいているのです」


「ラマズド長官の家政婦モンスターの能力向上については理解できる。しかし、以前から言っているように、リスクも多く含んでいる事を認識してもらいたい。エルフエナジーは星のエネルギーを凝縮させた石です。電力や磁場までも生み出し、また、この石を人が身に纏うと身体能力も開花させ超人の力を覚醒させるパワーストーンです。これを、魔物に照射するというのは前代未聞であり危険を伴います。魔物が暴走すれば国を亡ぼす大惨事になる。これは声を大にして主張します」


「ジン博士、ベネフィットがリスクを常に上回るように、研究者は仮説を立て、実験を行い、結果を考察しながらリスクを最小限に抑えるように、日々研究をしているわけです。不気味なうめき声もその過程ですのでご安心ください」


「照射は危険だという論文も作り示して説明しているのにも関わらず、聞き入れないラマズド長官に、改めてこの場で抗議をします。また、ケーター首相の発案により王研は改変され、一般研究区域と特別研究区域を作りました。研究予算も特別研究区域が多いのは何故ですか。長官の意思に反する優秀な研究員は退職している。我々上層部の意向に沿わないものは、退官させられると噂が絶えないため、忖度職員も多くでてきている。これでは、良い研究ができない。これも、ラマズドに図ったが無視されている。国王陛下、ラマズド長官にこれらの問題を無視せず対応をするように、ご指示ください」


「ジン博士落ち着きなさい。首相、研究区域を設けた理由を、もう一度、問う」


「はい、陛下。国民の利益と国家繁栄に最も繋がる研究室を集めたのが特別研究区です。この区画に予算を大きく配分する事としております。一般研究区域も将来性がありますので、予算を削る事なく、要求された予算とおり支払っております。長官が先に言われたように、家政婦用モンスターの能力向上は、多くの国民の生活に多大なメリットがあり、新たな産業の基盤となり得ると考えました。その研究を行っている特別研究区域に予算を大きくつけたのであります。限られた予算の中で、組織を束ね前に進めさせるためには致しかない事です。我々の意向にどうしても従わない人は辞めて頂くのが、本人にとっても、組織にとっても、結果良い事だと思いますが、いかが思われますか」


「それは詭弁だ。一般研究室の予算は年々減らされている!!知らないのか!!

感情論になるが、研究者の苦労に寄り添う事が良い研究を生み出す。研究を追求するあまり、精神性や道徳を忘れているような気がしてならん!」


ケーターがすぐさま反応をした。


「研究員が目標を掲げた研究に成果がでないものは予算を減らし、将来、有益な研究に予算を多く配分するのは当然だと思いますが。成果がいつまで経っても出ていない研究に予算を多く使われては困ります。ジン博士の管轄であるエルフ精鋭隊の武器防具関連研究、時空間の解明については特別研究として承認しているではありませんか!」


国王が儀式の杖を床に叩いた。


「状況は分かった。これより私の見解を述べ各々に命令する。まず、魔物にエルフエナジーを照射する件について、ベネフィットよりリスクが上回っているかどうかは判断がし難い。よって、本件は継続審議とする。博士の主張のような命に係わる大惨事が起きるのか、起きないのか、博士と長官以外の第三者の学者からの意見も聞いて継続の判断を行うから、ラマズド長官は公聴会の準備をする事。また、王研は能力主義一辺倒になり協調性が著しく欠いていると見受けられる。研究員や博士の意見を広く聞き、職場改善の進捗状況を逐次報告するように。次にケーター首相に命令する。王研の区画分けを廃止し、各々の研究室が求める予算を配分する事。この命令は2度目だ。君は先の主張を繰り返して聞かずにいる。成果や数字を重視する癖がある。成果がでなければ、職員が知恵を出し合い協力する事が大事だ。王研があるからこそ新しい産業が生まれ、国民と国家が繁栄してきた。今後も研究し易い、働き易い環境を整備するのか政事まつりごとを預かる者の務めである。目先の数字を追い過ぎると、大切な本質を忘れてしまうのが人間の特性であり仕方がない。しかし、この先何も対策を講じなければ、君の進退について私は考えなくてはならない。首相とラッセル大尉は、この後、私と三者会談を執り行うから、この場に残るように」


速記者が議事録をすぐさまプリントアウトし、イーサム王の前に置いた。

王は自筆のサインと王印を押し、ケーター達に回覧した。

ケーター達もサインと押し印をした。


「これにて散会とする」


イーサム王は儀式の杖を一回床に叩いて、一旦、会議を終えた事を知らせた。


ジン博士はラマズド長官と目を合わさず、苛立ちながら席を立ち、国王陛下に一礼をし退室した。ラマズドは表情を変えず一礼して退室した。ケーターは下を向きながら地団太を踏む事は出来ず、握り拳を作って耐えていた。私が王国崩壊のボタンを押す日が必ず来ると言い聞かせ、冷静にならなくてはと必死で感情を押し殺していた。


「これより、三者会談を執り行う。冒頭、ケーター首相が以前に提案してくれた王位を息子に譲位させる件だ。我が子息に王位を継承させる事にした。1か月後に「湖上の大聖堂」にて王位の継承を行うから、その準備に取り掛かるように命じる。王研の件も忘れずにな」


待ちに待った回答が返ってきた。これで王国崩壊ができる。笑みがこぼれた。


「かりこまりました。直ぐに国内外に広く公布し、準備にとりかかります。王研の件は国王陛下のお叱りで私は目覚めました。申し訳ございませんでした」


「理解すればそれで良い。よろしく頼んだぞ。ラッセル大尉、国防について報告を」


「はい、ここ数年、国内6カ所にあるエルフバリア塔の力価が極端に落ちてきております。その原因はわかっておらず、研究員と合同で調査をしているところです。

市街、村には魔物は徘徊はしておりませんが、人気の無い山奥や諸島で魔物が徘徊してます。今月は120体の魔物をエルフ精鋭隊が出勤して駆除。最近の魔物は進化しており、再生回復能力を持つものがあります。これらの魔物はチーム戦で急所を狙う必要性があります。国防強化のためにエルフ精鋭隊を増員してください」


「わかった。エルフバリアがもし壊れたとしたら、魔物による被害は甚大となる。

早急にエルフバリアの回復を博士と進めて下さい。エルフ精鋭隊の増員も認める。

ケーター首相、帝国と和平友好条約を締結しているが、帝国はこの条約を反故して、国宝ブルーエフルエナジーを奪いに攻めてこないかね」


「それは、ないと思われます。帝国は過去の大戦に反省をしたうえで、自国が蒔いた魔物討伐の為にレジスタンスを形成し積極的に活動をしているとの事です。また、両国民は親交を活発化しており過去の傷は癒えているものと思われます」


「そうか、両国民が親交を深められたのはケーター首相の功績だからな。それなら良い、ラッセル大尉どうした、言いたそうな顔をしているが」


「はい、ニュースでも取り上げれていますが、スメラ秘書官についてです。ここ1ヶ月、矢継ぎ早に首相官邸職員や行政区の職員の失踪事故が起きております。スメラ秘書官はケーター首相と反りが合いませんでした。スメラは私と同期でエルフ精鋭隊で任務をしました。彼は官庁に転職しましたが公私共に交流があります。彼が容易に魔物にやられるとは考えにくいのです。身体能力も高く、危険を予知できますので不可解に感じております」


「ラッセル大尉、私がスメラ秘書官を拉致し殺したと言っておられるのですか!」


「いえ、そういう訳ではありません。ただ、緊急通報が無いのです。全て関係者や家族からの行方不明届で発覚してます。全ての案件で魔物に食いちぎられた遺体も見つかっていないのが不可解なのです。親友はケーター首相へ不満を漏らしていたもので、八つ当たりしました。大変申し訳ございません」


「首相、行政区のみで事件が起きているとは看過はできない。制止を聞かず魔物討伐に行くのは相当ストレスが溜まっているのではないか。君は人が変わってしまったかのように思う。成果の果実を追い求め過ぎて、周囲の意見を聞いているようで聞いていない気がする。いつか、国民に愛想を尽かされる。以前の君は実直で人々に尽くしてきた姿はとても美しかった。私は期待を込めて数々の要職を与え、君は全て期待に沿う仕事を行った。老若男女問わず好かれている姿をみて私は首相に相応しいと思い任命をした。ケーター君は出来る人間だ。初心に戻り仕事をする事を願っている。以上、散会とする」


国王は杖を床に、コン、コン、コン、と三回叩いて、会議の終わりを告げた。


ケーター首相らが起立しお辞儀をする中、近衛兵が入ってきて、国王は近衛兵に護られながら懇談の間から退室した。


ラッセルも要注意人物だな・・・


「ラマー秘書官、速報を流すように報道局に連絡を、これより王位継承に向けて準備を行う、関係省庁へ通達を」


「かしこまりました」


=ニュース速報=


イーサム国王、イザベル王子に王位を継承へ、首相表明


突然の吉報にイーサム王国民は歓喜した。街は一気に祝賀ムードになり

国を挙げて新しい王様を迎える準備が始まったのだ。


ケーターは官邸にすぐさま入り、灯りの消えた執務室の受話器を上げ、帝国のサンド帝王に電話をかけた。笑いが止まらない。


「サンド閣下、着々とイーサム王国乗っ取りの準備は進んでおります。今、イーサム王から1ヶ月後王を譲位すると明言されました。既に、ラマズド科学技術長官にイザベル王子とアーニャル王女のクローンを王立アカデミー研究所で制作するように指示をしてます。こちらも順調に育っていると報告を受けております。本物は最果ての西の島でお陀仏にする計画を立ております」


「そうか!ようやくイーサム王国を手に入れる事ができる。王子達をどのようにお陀仏にさせるのだね」


「王子と王女の世話係に人型モンスターのレイチェを任命しました。彼女は今二人との信頼関係を築くために親身にお世話をしていると報告を受けています。王位継承の前に西の島へ二人を移動させます。睡眠薬で二人を眠らせ、レイチェにエルフバリア塔を破壊するように指示してあります。そうすれば、魔物を徘徊させることができます。そして、二人が目覚めたとき魔物の餌としてお陀仏になるのです」


「手の込んだ計画だな。魔物の餌がそれは面白い。一瞬で暗殺をするのではなく、恐怖を体験させながら王子達を追い詰めるのだな。イーサム王はどうする?」


「イーサム王はクローン王子が王となったとき、息子によって地下牢に幽閉させます。そして、国が亡ぶのを見せつけて、息子の剣で始末する計画でございます。クローンの思考はこちら側で自由にコントロールできるように遺伝子改変を施してます」


「ケーター君、君はアルバニア帝国史に残る偉業を成し遂げようとしている。流石、優秀な軍師であった父親の血を引くものだ。父親もきっと喜んでくれていると思う」


「お褒めのお言葉ありがとうございます。これで我が帝国が世界を統一出来、サンド閣下が望む、永遠なる平和の世の中を作るという目的も到達できます」


「ケーター君、おさらいをするからよく聞き給え。イーサム王国と我がアルバニア帝国のサンド家は元々一つの王家だった。先代の王が亡くなり遺言によって、イーサム家に世界で一つしかない知恵と力を与えるブルーエルフエナジーと水ガメが相続された。我がサンド家はエルフエナジーが豊富に採掘できる山脈と自然豊かな広大な土地と屋敷を与えられた。しかし、イーサム家は力づくで、我が家に与えられたエルフ山脈の領民たち、家臣、兵士の尊い人命を奪って山脈を独占して今日に至る。我が家の先祖代々は強欲にまみれたイーサム王の蛮行を阻止するために施策を講じた。イーサム王国に被害にあったメーティス族の知恵を借りて生物科学技術を発展させた。エルフ精鋭隊に対峙する戦闘員は領民ではなく植物、動物の遺伝子組み換えを施た魔物を制作し、調教師のコントロールで魔物に掃討作戦に当たらせた。しかし、ジン博士のエルフバリアが完成する事で、大多数の魔物は光分子化され我が軍は壊滅状態になった。イーサム王国への掃討ができなくなった」


「サンド家とイーサム家との関係改めて確認ができました。ありがとうございます。閣下もご存知のとおり、私の生家はエルフ山脈の麓にありました。先祖代々からお山を信仰の対象として守ってきました。エルフ精鋭隊の奇襲に遭い、親しんだ生家や家族を奪ったエルフ精鋭隊。幼い私の心は今でも生きて居り、私の中の悲しみは今でも癒える事はありません。ある日突然、平凡な日常を奪われ、尊敬していた父、寂しがり屋の私を優しく包んでくれた母親を亡くした、親子の時間を奪われた、悲しみ、苦しみをイーサム王をはじめ、平和の有難さを忘れ、煩悩三昧になっているイーサム王国民に天罰を与えないと気が済みません」



「私は君の父親に助けられた。ケーター君の父親の判断がなければ、今頃、この世に居ないであろう。ケーター君は我が家族の大切な一人だ。それにしても、イーサム王国民を豊にする政策には驚いた。私は猛反対したが覚えているかね」


「ええ、覚えていますよ。激怒された事を。しかし、サンド閣下は私の主張を最後まで聞いて下さって、大きなベネフィットをご理解の上ご判断されたのは閣下です。感謝申し上げます」


「私はケーターがイーサム王国に本当に帰化してしまったのかと思ったのだ。君の渾身の説明を受けたときイーサム王国の全てを手に入れる事が確信できたからだ。私はイーサム王国と和平友好条約を提案し締結した。我が帝国が誇る生物科学技術をイーサム王国に提供した。家政婦用のモンスターを提供し、エルフ関連製品を輸入する代わりに、我が国の刺客たちを王研に潜入させエルフ関連製品の知的財産とエルフ精鋭隊の武器製造過程等の事情を接収が出来きた。その後、ケーターが押すボタンによって、イーサム王国は惨事に見舞われる。国民に精神的及び肉体的に惨めな思いをさせて、ケーターが幼少期に苦しんだ思い、我がサンド家や領民たちがイーサム王国に受けた仕打ちと同様の苦しみをイーサム王に思い知らせることができる。イーサム王は自分の王国が亡び全てが文無しになり地団太を踏みながら一生を閉じると、聞いた私は納得したのだ」


「ありがとうございます。私がこの国の首相に成れたのも、サンド帝王のご理解と協力があったからこそできました。国家や国民に大きな貢献をして絶大な信用を得ないと首相の座には任命されません。私の過去を封印し、この国の官史となり国民の公僕となり耐え忍んできた長い歴史があります。所得を倍増させる事でイーサム王国民の尊敬も集める事ができました。私が売国奴である事は国王を含めて誰も疑わないでしょう。これから、茹でカエルのように、じわじわと、イーサム王国を破壊してまいります。イーサム国王に謁見する度に怒りが沸いてきますが、これも未来の自分に託して、様々な要職を積んでここまでこれました」


「そうか、私は楽しみにしているぞ」


「サンド閣下、楽しみにお待ちください」


受話器を置いた。


「着々とこの国にかたきを打つ準備が整いつつあるな、フフフ、アハハ」


突然やってくる王国崩壊のシナリオに人々がパニックになり、イーサム王が苦しむ姿を想像しながら、甲高い笑い声をあげた。


突然扉が開いた。


「誰だ!」

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