第4話 異常な世界
「さあ、事実上の決勝戦となったレースを前に、先程と同じように選手たちにインタビューを行いたいと思います。田中さーん! よろしくお願いします」
「分かりました。では、早速インタビューを始めます。まずは第一コースのシャーペン選手、前レースが予想外の結果となりましたが、今の率直な感想を聞かせてください」
「そうですね。このレースが事実上の決勝戦となってラッキーな部分もありますが、人間による妨害や他選手に傷付けられて脱落となった選手たちには同情しています」
──本当は同情なんてしてないんだろうけど、好感度を上げるためにはそう言った方が無難だろうな。
俺はシャーペンの大人な発言を聞いて、人間も文房具も基本的に考え方は変わらないのだと思った。
「分かりました。では次に二コースのえんぴつ選手、今のシャーペン選手の発言を聞いてどう思いますか?」
「そうですね。ハッキリ言って、今の発言には
「何を根拠にそう思うのですか?」
「同じ筆記用具として、私は彼の性格を熟知してますからね。彼が他の文房具に同情するなんてあり得ません」
えんぴつが淡々と話すのを、シャーペンはずっと鬼のような形相で睨んでいた。
──どうやら、えんぴつはシャーペンに相当恨みがあるようだな。大昔はえんぴつの方が人気があったようだが、今はシャーペンの方が圧倒的に上だからな。
「筆記用具同士バチバチの様相を呈していますが、このままインタビューを続けます。次に三コースの下敷き選手、コンディションはどうですか?」
「私は普段から万全な体調管理をしているので、何の問題もありません。それより、私はいつもノートとセットとして扱われているので、今日は単体でもしっかりやれるところを見せてやろうと思います」
「ずばり優勝の自信は?」
「なければ、ここに立ってないですよ。はははっ!」
──体調管理の具体的な方法を聞いてみたいところだが、レポーターも敢えてそこには触れないみたいだな。
「それでは次に四コースの消しゴム選手、先程下敷き選手が優勝宣言されましたが、それについてどう思いますか?」
「そうですね。僕はそんな実力は兼ね備えていないので、そんな強気な発言のできる下敷き選手が正直羨ましいです」
「随分遠慮気味に話されていますが、先程のホッチキス選手のように、レースになった途端豹変することはないでしょうね」
「そんな振りができる程、僕は器用じゃありませんよ」
──レポーターのツッコミに対して、すぐに気の利いた返しをするあたり、やる気満々じゃないか。こいつもさっきのホッチキス同様、油断ならないな。
「それでは次に五コースのコンパス選手、巷ではコンパ好きで知られていますが、昨夜もコンパに出掛けたのですか?」
「ええ。昨日はカッターと合コンして、楽しいひと時を過ごしました……って、何を言わせるんですか! 大事な大会を前に、そんなことするわけないでしょ!」
「どうだか。まあ、それはそれとして、ずばり優勝する自信はありますか?」
「世間的に俺は軟派な奴だと思われてるので、今日はそのイメージを払拭するためにも優勝を狙います」
──コンパスがコンパ好きって、ただのダジャレじゃないか。一周回って、この時代はこんなダジャレが流行ってるのか?
「それでは次に六コースのセロテープ選手、今のコンパス選手の優勝宣言をどう思いますか?」
「日頃ナンパばかりしている彼から、そんな発言が出るとは思ってもみませんでした。私は彼と違って真面目で通っているので、今日は彼にだけは負けたくないですね」
「ずばり、優勝する自信はありますか?」
「ありません。私は彼に勝ちさえすれば、それで満足です」
──こいつ、コンパスを下げて自分を正当化しようとしているが、本当はコンパをしまくっている彼のことが羨ましくて仕方ないんだろうな。
「それでは次に七コースの分度器選手、このレースに懸ける意気込みを聞かせてください」
「そうですね。私は文房具の中でも比較的地味な存在なので、今日は大いに目立ちたいですね」
「具体的に、何か作戦とか考えているのですか?」
「ええ。皆さんをあっと驚かせるようなパフォーマンスを用意しておりますので、楽しみにしていてください」
──みんなが驚くようなパフォーマンスか。確かにそれはちょっと見てみたいかも。
「それでは最後に八コースの筆箱選手、ここまでの各選手の発言をどう思いますか?」
「まあ、下敷き以外は全部私の中に納まるものですからね。そんな奴らが私を差し置いて優勝宣言するなんて、へそが茶を沸かしますよ。はははっ!」
「確かに、筆箱選手には他の文房具をまとめているイメージがありますね。では、今日のレースも優勝する自信はありますか?」
「当然でしょ。こいつらに格の違いというのを見せつけてやりますよ」
──うっかりスルーするところだったが、文房具がことわざを使うなんて、今更ながら異常な世界だよな。
人間とのやり取りの中で、文房具が当たり前のようにことわざを入れている現況に、俺はあらためて戦慄を覚えた。
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