第2話 本音と建前

「さあ、大観衆が見守る中、いよいよレースが始まろうとしていますが、それに先立ちまして、まずは選手紹介をしようと思います。レポーターの田中さーん! よろしくお願いします」


「分かりました。では、準決勝の第一レースを走る八選手にインタビューを行いたいと思います。まずは一コースのボールペン選手、今の心境を聞かせてください」


「そうですね。私は人気投票でかなり上位の位置にいたので、格下の連中に負ける訳にはいかないですね」


──なにー! なんでボールペンがしゃべってるんだ? あれはロボットなのか?


 見た目はただのボールペンが普通に受け答えしている姿を見て、俺は腰が抜けそうになった。


「なるほど。では、この準決勝はただの通過点と思っているのでしょうか?」


「ええ。私が狙ってるのは、あくまでも優勝ですから。はははっ!」


「おおっと! 初っ端から早くも優勝宣言が飛び出しました。これがビッグマウスでないことを、私はただ願うばかりです。それでは次に二コースのマーカー選手、体調の方はいかがですか?」


「バッチリです。同じ筆記用具として、隣のボールペンには是非とも勝ちたいところですね」


──体調だと? そもそも文房具に体調なんてあるのか?


「確かに、マーカー選手は人気の面でも負けていますし、そのうえレースでも負けてしまったら、この先どんどん差がついてしまいますからね」


「ええ。ボールペンに追い付くためにも、このレース負ける訳にはいきません」


「分かりました。それでは次に三コースのノート選手、このレースを戦ううえで何か作戦とか考えていますか?」


「そうですね。面積でいったら、私はこの中で一二を争う大きさなので、それを利用したレースを展開しようと思います」


「それは具体的にはどのように考えているのですか?」


「それは後のお楽しみということにしておいてください。はははっ!」


 三種類の文房具のしゃべる姿を立て続けに見ていると、不思議とあまり違和感がなくなってきた。

 俺は自らの感覚がだんだん麻痺していくのを自覚しながら、そのまま画面に目を向けた。


「それでは次に四コースの付箋選手、レース前の意気込みを聞かせてください」


「そうですね。私はどちらかというと地味な存在なので、今日は是非ともそれを払拭したいですね」


「どうやって払拭しようと考えているのですか?」


「何かしら目立てばいいなと思っているだけで、これといったものは特に考えていません」


──おい、おい。ここまで来てノープランかよ。それじゃ、他の選手たちに失礼だろ。


「分かりました。それでは次に五コースの三角定規さん、今なにを考えていますか?」


「あ? そんなの決まってるだろ。俺は優勝のことしか考えてねえよ」


「それは優勝宣言とみてよろしいんですか?」


「ああ。ここにいる全員をなぎ倒してでも、俺は優勝してやるからな。はははっ!」


──やけに尖った発言をするが、それはフォルムが関係してるのか?


「それでは次に六コースのバインダー選手、ボールペン選手に続いて三角定規選手にも優勝宣言が飛び出しましたが、それについてはどう思いますか?」


「別になんとも思っていません。どうせ優勝するのは僕なんですから」


「凄い自信ですが、その根拠はなんですか?」


「このメンバーを見る限り、僕が負ける要素がまったく見当たらないんですよね。はははっ!」


──こういうことを言う奴に限って、本番では大したことないんだよな。


 俺は今までの経験から、バインダーはただの雑魚キャラだと判断した。


「それでは次に七コースのホッチキス選手、ずばり優勝する自信はありますか?」


「このそうそうたるメンバーの中に選ばれただけで光栄なので、優勝なんてまったく考えていません」


「他の選手たちに比べて随分弱気な発言ですが、士気を高めるためにもここはもっと強気な姿勢を見せた方がいいんじゃないですか?」


「いえ。私は元来争いごとを好まないので、このレースも完走することを目標に走るだけです」


──こういう低姿勢な奴ほど、野心に溢れている場合が多いんだよな。


 俺はホッチキスを侮れない存在として、注目することにした。


「それでは最後に八コースのハサミ選手、今緊張はされてますか?」


「はい。でも、それはいい意味での緊張であって、決してガチガチになっている訳ではありません」


「なるほど。つまり、程よい緊張を感じているという訳ですね?」


「ええ。一般的には全然緊張していないよりは、多少緊張を感じている方がいい結果を残すとされてますからね」


──こいつ、口ではそう言ってるけど、本当は今にも逃げ出したいくらい固くなってるんだろうな。


 強がっているハサミの姿を見て、その愛おしさから俺は思い切り抱きしめてやりたくなった。




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