王国連合首都ガランダルへ向かって――共闘開始

「ところでコールドゥと私達が共闘するなら王国連合首都ガランダルに行く必要は無くなったって事?」エルフの女魔法戦士キョーカがもっともな疑問を口にした。


「そうでもない」軍偵忍者ライオーの相棒の魔術師ガーザーが答えた。


「ガランダルを災厄が襲う――止められるのは儂等だけだ。無視するなら――儂はそれでも構わんが――ガランダルは壊滅するだろう」


「それもゲルグの企みの一環なの?」


「恐らくはな――」


「知ってしまったら行かないわけにはいかないわ――コールドゥは連れて行けるの?」王女がガーザーとコールドゥを見つめる。


「俺はもってあと一年の命だろう――場合によってはもう少し長く生きられるかも知れないが――〝災厄〟とやらが余り先に起こるようなら俺は行けない」


「お前がガランダルに入らなければ先になるだろう――入れば一週間と経たずに起こる――罠だが、行かなくとも起こる事は確実だ――」ガーザーは断定した。


「他の冒険者達に任せる事は出来なくても――せめて応援を頼むとかは?」女勇者マキが戦術家の顔を見せる。


「ガランダルにも地下迷宮ダンジョンは有りましたわね――」魔術師マーヤが同意した。


「仲間を募る事は出来るだろう――しかし戦力になるかどうか。王女を追わせていた他のエセルナート王国の冒険者達も力不足だ」ライオーは思案顔だった。


「現地で募ってもタダ働きしてもらうという訳にもいかないしね――実力のある冒険者ならかなりの額をはずまないと」今まで黙っていた不老不死ハイエルフの女忍者ホークウィンドが口を開いた。


「ガランダルの危機ならそう言えば――」


「信じては貰えんよ――今の所この危機を知っているのは秩序機構と儂等だけじゃ」アナスタシア王女付き女護衛騎士カレンの言葉をガーザーは否定した。


「エセルナート王家の名を出すのは?」今度は王女が提案した。


「王女殿下、ガランダリシャ王国連合はエセルナート王国が侵略しているリルガミン神聖帝国と緩いとはいえ同盟関係にあります――敵対的な反応が返ってくる可能性が高いかと」ライオーが言上げした。


「最悪、アタイらだけでどうにかしなきゃって事だね」ドワーフの女戦士シーラが唸る。


「人事を尽くして天命を待つしかないね――それより先ずは昼御飯かな」ホークウィンドが場の雰囲気を軽くしようとおちゃらけた。


 全員、朝食を抜いて空腹だった――「そうですわね」「そうだな」「そうですね」――次々と賛同の声が上がる。


「じゃ、何処か適当なお店に入ろうか? そこで今後の事を決めようよ」皆その言葉に賛意を示した。


 暑さ対策にマーヤとキョーカが召喚した風妖精シルフィードに空気を扇がせ暑さをしのぐ。


 出来るだけ人目につかない様街中まで戻り、居酒屋兼食堂に入った。


 遅くなっていた為、人の入りが少ない食堂の隅で一同は昼食を取る。


「コールドゥ=ラグザエル。秩序機構を敵にする戦方士だ」まずコールドゥが名乗った。


 血のような赤毛には金属様の光沢が有る。


 右目が緑色、左目が深赤色のオッドアイだ――これも悪魔の身体組織が肉体に及ぼした影響だった。


 左目周辺に悪魔が宿った印のケロイドが有った。


 前髪を伸ばしていたがケロイドを隠しきれるものでは無かった。


「ボクはホークウィンド、王女奪還の為エセルナート王国に雇われた女忍者。流派は西風ウェストウィンド


 ホークウィンドは斬り揃えたプラチナブロンドのショートヘアにエメラルドグリーンの瞳、背丈は180センチを超え、黒づくめの装束に苦無を持っていた。


「カレン=ファルカンソス。エセルナート王国アナスタシア王女専任直属護衛騎士――仲間を殺した事――許しはするけど、忘れはしないわ」


 カレンはホークウィンドより低いとは言え平均的な人間の男性並みの身長に肩口で斬り揃えた黒髪、緑色の瞳の持ち主だ。


 身に付ける神器アーティファクトの鎧の色から深緋の稲妻〝スカーレットライトニング〟とあだ名される魔槍の使い手だった。


 今まで敵同士だったコールドゥとカレン達はお互いに自己紹介を交わし、今後の予定を立てる。


「キョーカ=ナバタメ。魔法戦士サムライ。ホークウィンド姉様と同じく王女奪還に加わったエルフよ」長い黒髪をなびかせて青色の瞳でコールドゥを睨む。


 緑色の板金鎧プレートメイルに緑の外套マント細身剣レイピアにやや小ぶりな盾を身に付けていた。


 平均的な人間族女性より背が高く、痩せていた。


「マキ=ライアン。龍の王国ヴェンタドールの勇者セトルの一族出身よ」マキは見事な赤髪のショートヘアに真っ青な目だった。


 キョーカより3~4センチほど背が低く、彼女よりも肉付きは良い。


 白い板金鎧に片手半剣バスタードソードと大盾を使う、サムライではないが彼女も魔法戦士だった。


「アタイはシーラ=トーガ。見ての通りドワーフの戦士さ」癖のある金髪を編み上げた薄青アイスブルーの瞳の女ドワーフが宣言する。


 130センチほどの背丈のグラマラスな体形を板金鎧が包んでいる。


 大きな両刃の両手持ち戦斧を得物にしていた。


「私はミア=タカミア。至高神カドルトを奉ずる女神官プリーステス人間族ヒューマン」ミアはくすんだ金髪を女性用頭巾ウィンプルで隠して瞳は黒に近い茶色だった。


 ミアは僧服に胸甲をつけていた。


 得物は鎚鉾メイスだ。


「マーヤ=アッパーヴィレッジ。人間族の魔術師メイジ、これでも白亜の島アーヴィオンの貴族ですわ」小柄な身体に長めのプラチナブロンドの髪、紫の瞳の女性だ。


 身体に不釣合いなほど、胸が大きかった――他の所が控え目なだけに余計に目立つ。


 腰に50センチほどの長さの短剣ショートソードに薄紫の法衣ローブを纏っていた。


 少しの間が空いた。


 全員が金色長髪の軍偵忍者とその相棒の老魔術師を見る。


「ライオー=クルーシェ=フーマ。エセルナート王国軍偵忍者。〝虚無ヴォイド〟と〝サマー〟でマスターの称号を得ている」190センチを軽く超える細身の青年だ。


「ラルフ=ガレル=ガーザー。魔都マギスパイトの魔術学院出身の魔術師だ」ガーザーは一行の中で一番背が高い偉丈夫だった。


 黒の法衣に長い白髪、左目に眼帯を掛けている。


 最後に王女が自己紹介した。


「アナスタシア=トレヴァヴナ=エリストラトヴァ=エセルナート。〝狂王〟トレボー唯一の娘よ」伸ばした直毛の金髪に青い瞳の平均的な背丈の美少女だった。


 今は平民が着る様なきめの粗い質素なドレスを纏っている。


 服は質素だったが雰囲気は周りを圧するものが有った。


「コールドゥ。貴方が何故秩序機構に敵対しているのに機構に従わなければいけないか一度説明した方が良いわ。貴方の今の状況も」王女が促す。


「知ってる者も居るかも知れないが俺は秩序機構総帥の祖父ゲルグ=アッカムを殺すつもりだ。家族が奴の犠牲になった。今も母と姉が人質に取られている」王女の言葉に頷いたコールドゥが皆を見回して話し始めた。


「俺自身も奴の人体実験で長く生きる事は出来ない身体にされた――」


「姫様をさらったのは秩序機構に命令されたからなのは分かるわ――でも護衛の騎士たちの心臓を喰らった理由は――」カレンがコールドゥを睨む。


「俺は週に一度人間の心臓を左手の悪魔に喰わせないと活動不能になる――俺が受けた人体実験は悪魔の組織を身体に植え付けて、魔法が使えない人間を人為的に魔法使いにする実験だった――その副作用だ。左手の悪魔の力を全解放した時はどうしようもない殺人衝動に囚われる時も有る――理解してくれ等と言うつもりは無い」


「理解はするけど、納得はしないわ。でも姫様を汚さずに返してくれたから――」カレンはやれやれという様に首を振った。


「敵の敵は味方――だね」ホークウィンドは後を引き取る。


「姫様をマギスパイトまで連れて行くのには私は反対――だけど姫様は行くつもりなんですよね」諦めたように再度息をつく。


「秩序機構を放っておく事はエセルナート王国だけでなく世界にとって危険なものになる可能性が有るわ――分かって、カレン」王女がたしなめる。


 ライオー同様、カレンも王女が言い出したら引かない性格なのは分かっていた。


「魔法で王女の複製人形ドッペルゲンガーを造って連れて行くのは――」見かねたキョーカが提案する。


「本物かどうか見分けるのはゲルグにとってはさほど難しくは無いだろう――奴も複製の魔法は知っているからな――恐らくは無駄に終わる」魔術学院でゲルグと同期生だったガーザーが言った。


「それに複製人形を造るのは作成者の生命力を奪う魔法だ――避けれるなら避けた方が良い」


「変身能力の有る怪物モンスターに王女を擬態させるのは?」


「囮には使えるだろう――複製人形同様に――だが見破られる可能性は残る。囮を作ること自体は良い案だ」


「私は魔都まで行くわ――囮で危険が減っても、これは私の戦いよ」


 戦力にならない王女が魔都までついてくる事は戦術的には正しい判断とは言えない――しかし王女自らが秩序機構壊滅の先導者となったのであればエセルナート王家には多大な見返りが有る。


 もちろん王女にもその計算は有った――だがそれ以上に秩序機構への怒りが勝っていた。


 全員が王女の覚悟を理解する――


「先ずはガランダルの〝災厄〟を防ぐ事ね。ゲルグの企みを打ち砕くわよ」王女がリーダーシップを取る。


「ライオー、ガーザー、貴方達は後方支援バックアップにまわって、いざという時に私達を援護して。カレンとホークウィンドのパーティーは私達を追っている振りをして――ギリギリまでゲルグを欺くわ」


「せっかく会えたのにまた別れるんですか――姫様」カレンが不満を口にした。


「〝振り〟よ――私だって貴女と別れて動くつもりは無いわ――今までと上辺だけは同じにしないと怪しまれるわ」


 王女に指導者として天賦の才が有る事を全員が認めざるを得なかった。


「ガランダルまでの道中はどうするんだい?」シーラが指摘した。


「ガランダルまで河を下って十日前後。俺達は海エルフの船でガランダルに向かっていた――後十人は船に乗れる――ここに居る全員で船に乗るか?」コールドゥが聞いた。


「俺とガーザーは乗らない方が良いかも知れないな――面が割れている――」ライオーは又もや思案顔だった。


「私とコールドゥは乗るべきね――カレン達も乗っても問題ないと思うわ――船上で私達にゲルグが念話や遠見の魔法を使ってくるとは考えにくい――周りにバレる危険を冒す筈は無いわ。〝災厄〟に対処するのに余り戦力を分散したく無い」王女が総括する。


「カレンは身元が割れてるかも知れない――念の為、認識阻害の魔法も使えば恐らく問題無いでしょう――コールドゥ、強制ギアスの魔法が掛かった首環、魔法を解呪ディスペルしてもゲルグにバレない?」


「何とも言えない――奴は勘が鋭い――気付かれないとは断言できない」


「ならこれもギリギリまでそのままの方が良いわね――ちょっと不便で辛いけれど」


 王女に嵌められた首環はコールドゥから三十メートル以上離れられない様に魔法が施されていた。


 その時、一体の風妖精シルフィード――身長三十センチ程だ――が店内に入ってきた。


 真っすぐ王女とコールドゥの元にやって来る。


「海エルフのベレシルオンの使いです。荷の積み下ろしが終わりました――船に乗るなら明日夜明けまでに川沿いの港に来るように。夜は船で過ごしても宿で過ごしても良いとの事」


「私達は今夜は宿を取ります。ベレシルオンに伝えて貰える?」王女が簡潔に伝えた。


 風妖精が頷くと店の外へと出ていく。


「行きましょう」昼食を終えた全員が表に出た。


 転生者、無口蓮むぐちれんの愛刀が消えている事に誰一人気付いていなかった――。

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