8月9日
「はあ……」
8月9日、水泳部の部室兼更衣室で部活仲間と一緒に水着から服に着替えながら僕はため息をつく。ため息の理由は簡単だ。今日と明日はオオバさんに会えないから。
二日間会えないという事は、もしかしたらどこかに泊まりがけで出掛けているのかもしれないが、昨日一緒に布団の上に寝転がっていた時に訊いても用事の内容は教えてくれなかった。それを思い出した途端、僕の中の不安が強くなった。
「……まさか誰か男に会いに行くとか……!?」
それはあり得る。母さんと同じくらいで僕より二回りくらい歳が離れているとはいえ、オオバさんだって僕以外の誰かと楽しみたいと思う可能性はある。
その瞬間、オオバさんのあの肉体がその相手の好き勝手にされているかもしれないと気づき、僕の中で名前も顔も知らない男に対しての嫉妬と憎しみが募り始める。
もちろん、そうじゃない可能性はある。だけど、あのむせ返る程に甘くて芳醇な匂いを放つ肉体は魅惑的であり、若い僕ですら魅了してやまないのだから、同じくらいの歳の男性、例えば母さんの事をずっと愛し続けている父さんのような人でも一度触れたらすぐにあの肉体の虜になるという確信があった。
「……もしも父さんがオオバさんと出会ったら……」
父さんとオオバさんが一糸まとわぬ姿で絡み合う姿を想像した瞬間、僕は思わず拳を固く握ってしまっていた。
「そんなの……許せない……!」
怒りと嫉妬、憎しみを抱きながら独り言ちていたその時だった。
「青志、着替え終わったか?」
「え……?」
突然声をかけられて背後を向くと、そこには部活仲間の一人がおり、想像をしながらも着替え終えていた僕は頷く。
「うん、着替えた」
「そうか、それじゃあ帰ろうぜ。俺、部活頑張って腹減っちまったよ」
「うん……」
頷いた後、僕達は部室を出る。そして校門へ向けて歩いている間、同学年の部活仲間達は部活中に見た女子の泳ぐ姿がどうの水着で隠れてない部分がどうのと話していたが、僕は混ざる気にはなれなかった。
そうして歩いていた時、校門のところに誰かが立っているのに気づき、僕はオオバさんかと期待しながら校門へ向かった。しかし、そこにいたのは同じ水泳部でクラスメートの
「おっ、若宮じゃん!」
「こんなところでどうしたんだ?」
「うん、明日は部活動が休みだから、友達と最近話題になってるプールに行こうと思うの。よかったらみんなもどうかな?」
「え、マジで!?」
「行く行く、絶対に行くよ。なっ、青志?」
「え……ああ、うん……」
正直興味はなかったけど、断っても雰囲気が悪くなると思って僕は肯定した。すると、若宮さんはすごく嬉しそうに笑う。
「よかったぁ……それじゃあ明日は現地集合でお願いね」
そう言いながら若宮さんは僕に一瞬視線を向けたが、すぐに校門から去っていき、部活仲間達はワクワクした様子で歩きながら話を始めた。
「青志、楽しみだな! ようやく若宮達のスクール水着じゃない水着が見られるかもしれないぞ!」
「あ……うん、そうだね」
口ではそう言ったが、僕の頭の中には水着姿の若宮さんは浮かばず、オオバさんの水着姿が浮かんでおり、寂しさを感じながらもその見事な姿に僕は一人興奮していた。
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