2-22:それはまさしくクズ男
戦場は混沌を極めていた。
お互いMPを失い、ほぼただの殴り合いとなった団長とクロヌリの戦場。
セレブリーによる低VIT狩りが繰り広げられる主戦場。
そしてグリーンを足止めするベガの戦場。
特に普段は圧倒的なまでのプレイヤースキルで攻略する姿を見せるベガの醜態に周囲は心を折られそうだった。
「……なんでこんなにいいビルドしてんだよ!」
ベガが悪態をつく。
「VIT型はINT型に勝てねぇ!INT型はSTR型に勝てねぇ!STR型はVIT型に勝てねぇ!そういう3すくみだろうが!」
通常攻撃を主力とするSTR型は自身のSTRを超えるVITを持つ相手には決して勝てない。同様にINT型は同様のSTR型に総ダメージで勝てない。そういうバランス調整がなされているのがこのゲームだ。
そういう風に思っていたのだ、この時までは。
「INTにある程度振っていたところでMPがなきゃお前にダメージを入れることができねぇ!最強ビルドじゃねぇか!」
事実、グリーンに邪教徒の所得を促したアマリリスの思考も同じものだった。
VITに偏ったグリーンを生かすためにはINT型への高いメタ能力が必要だと。
そして同時に、グリーンを無視できない存在にする必要があると。
そこで白羽の矢が立ったのがユニークジョブ“邪教徒”だった。
「なかなかいいジョブだろ?」
教皇暗殺により得たAスキル“邪なる簒奪”は相手からMPを吸い上げ自身のものにする、つまりそれは相手のスキルを封じることにもつながる。
大聖堂の虐殺によって得たAスキル“邪なる怨嗟の呪詛”は一度空にしたMPを継続的に0にするだけでなく、相手のHPを削る手段として呪いデバフを付与できる力。
大聖堂の破壊によって得たPスキル“その心は邪なる信念”による闇属性補正60は低い“強打”の固定ダメージを多少強化するほか、最後のAスキル“邪教徒の征く道に光などない”の暗雲デバフを強化することができる。
「ソリストねぇさん!グリーンさんを無視して全員でクロヌリを倒します!これ以上は戦力が減っていく一方です!時間も足りない!僕らの勝利条件は“軍団長の討伐”です!」
ポラリスがベガに向かって叫ぶ。
確かにセレブリーが次々と相手の頭数を減らしている現状、それが一番いい戦略だ。
だが、もう遅い。
「もうおせぇよ!“マーダー・サーカス”!」
一度でもセレブリーに斬り付けられたプレイヤーがすべて黒い粒子となって消える。
「俺様のジョブ“殺人鬼”は“殺人衝動”による高いSTRの獲得と、“マーダー・サーカス”による瞬間火力が特徴のジョブだ!雑魚ばっか並べても意味ねぇなぁ!?」
セレブリーの大技によってほとんどのプレイヤーがキルされた。
残っているのはポラリスとベガ、そして何もできないアルタイル。
「さぁ~て、そんじゃぁまぁ、趣味の時間だな!」
セレブリーはゆっくりとアルタイルに近寄っていく。
黄色いドレススーツに身を包んだ小柄な少女の傍まで行ったセレブリーはAGIが己のペナルティと合わせて20ほどまで低下した彼女を嗜虐的な瞳で見つめる。
「ヒッ……!」
セレブリーは二本の巨大な裁ちばさみの刃を彼女の鼻の高さに合わせてゆっくりと動かしてその刃を見せつける。
彼女の耳元で裁ちばさみの刃を擦り合わせ、特有の金属音をよく聞こえるように鳴らす。
「ヒィ……ヒィ……ヒィ……。」
過呼吸気味の彼女の顔を見て恍惚とした表情を浮かべるセレブリー。
裁ちばさみを再び鋏の形に合体させたセレブリーはそれを開閉し、シャキンという音を立てる。
耳元で何度もその音を聞かされたアルタイルは涙を流しながら必死に耐えようと身を強張らせている。
「さぁて、どこから切り落として上げようかなぁ?」
セレブリーはノリノリで彼女の視界の外を意識しながらシャキンシャキンと音を鳴らす。
「ヒィ、ヒィ、ヒィ……“強打”!」
破れかぶれのヘロヘロとした軌道の“強打”が発動する。
セレブリーはニヤつきながらそれを鋏で発動した“強打”で受け止める。
が、その瞬間、予想だにしていないことが起きたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます