2-20:絶望のアンコール

大鎌をもったクロヌリは強かった。

それまでとは一段違う、圧倒的なステータスによってまさにティラーを蹂躙していった。

ティラーの残す黒い粒子がどんどん足元を覆い隠していく。


「強すぎる!こんなの勝てるわけないじゃないか!」


何度目かのリスポーンしてきたポラリスがたまらず叫ぶ。

その叫びにクロヌリはポラリスという雑魚の中では目立つ存在が戻ってきたことを知る。


「“チェインスナッチ”!」


上空から鎖が叩きつけられる。

ポラリスは慣れた様子で横に躱して距離を詰めようと前に出る。


「引き寄せだぁ!」


クロヌリが鎖を引く。

鎖の回収のこの隙に攻め立てるつもりのポラリスの背を黒い半透明の刃が襲う。


「くっ……鎖鎌……ですか……。」


クロヌリの鎖の先には大鎌が縛り付けられていた。

その刃によってまたリスポーンする羽目になったポラリスは最後にその視界に映る希望を見た。


「……みなさん!クロヌリのティラーウェポンが消えました!今が攻め時です!」


その言葉にクロヌリは舌打ちをこぼす。

デスティアはティラーウェポン、もといデスティアウェポンの使用に時間制限が存在する。

イベントによって弱体化されたステータスからほぼ元のステータスまで強化できるこれは最後まで取っておくつもりだっただけに残り半分の時間をどうやって誤魔化すか悩む。


「もう半分経ったんだぞ!グリーンはまだか!」


つい、声を上げてしまう。

自身の敗北の未来が見えてしまい、弱音を吐いてしまう。


「ハイデリオン傭兵団の誇りとは力!ハイデリオン傭兵団の誓いは“全ての人間とティラーのために!”」


減った体力を戻してきた大団長がクロヌリに仕掛ける。

それをなんとかしのぐクロヌリだったが、限界が近かった。


「ハイデリオン傭兵団の誇りを受けるがいい!“ハイデリオン・ブレイブ”!」


大ジャンプからの巨大化した大盾による圧し潰し。

大団長の必殺技が放たれる。

巨大化した大盾は小学校の校庭ほどの大きさとなってクロヌリの周囲ごと叩き潰さんと迫る。


「クソ……!我らが女王のために!“ブラック・クロウ・アベンジ”!」


対するクロヌリもなけなしのMPをすべて吐き出して必殺のスキルを放つ。

自身の翼を巨大化させ、大盾を迎撃するように正面に向けて翼を叩きつける。


「ぐぅ……!こんなところでぇ……!」


爆音と共に二つのスキルがぶつかり合う。

スキルの相殺の結果はどちらに向いたのか。


砂煙が晴れた後に残っていたのはボロボロになったクロヌリと大団長。

スキルは相殺し合ったのだった。


「今なら!“雨の天気予報!”!」


アルタイルの声が響く。

雨雲が引き起こすデバフは“MP持続減少”。

クロヌリは雨雲が晴れるまでもうまともにスキルが使えなくなってしまったのだった。


「よし!俺たちの勝利だ!V-STARSに続け!軍団長を倒して完全勝利だ!」


デネブの声にリスポーンしてきたプレイヤー達が轟音のような声量で答える。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「俺たちの勝利だぁぁぁぁぁ!」


「やれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


プレイヤーがクロヌリへと殺到する瞬間。

両者の間に二つの人影が舞い降りたのだった。


「イベントボスは倒させない……ってな?」


「やっと殺しまわれるぜ……めんどくせえクエストやらせやがって!」


ノースリーブのセーターにデニムのスキニーパンツの女。

クラブにでもいそうな高級スーツを着崩した男。

最後の敵がプレイヤーの前に立ちはだかったのだった。

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