2-19:戦場に黒き三日月は輝く

クロヌリの鎖による範囲攻撃と高速移動についてこられるティラーはほとんどいなかった。

そう、目の前の男以外は。


「流石はハイデリオン傭兵団の団長様と言ったところか!だが!」


クロヌリは高速で戦場を移動しながらもついてくる団長に蹴りを叩き込んでいた。


「なかなかやる、が!まだまだ甘い!オクタディアとはこんなものか!」


それを大盾で防ぎながらシールドバッシュで対応していく団長。

二人の戦いは戦場のあちらこちらで散発的に怒るため、他のティラーは手が出せないでいた。


「ハーッハッハッハァ!団長が抑えている間に雑魚共を片付けるぞ!」


シャンザンの声に従いモブ兵が次々にビスデスを片付けていく。


「この間はいいところなしだったけど……“晴れの天気予報”!みなさ~ん!晴れの天気予報です!」


ヴィーナ☆アルタイルがその大きな杖を空に掲げると強い日差しが南都を包み込んでいく。


「流石に“天気予報士”は集団戦で最強ですね。僕もああいうジョブを選ぶべきだったかな……?」


ビスデス達は強い日差しによってじりじりとHPを減らしていくのだった。


「“Cスキル・お出かけ注意報”の発動を忘れずに~!」


アルタイルの持つユニークジョブ“天気予報士”は広範囲にバフ・デバフを撒き散らすスキルで構成されたジョブだ。

各種天気予報によってバフ・デバフの内容を決め、Cスキルとして他人に与えた“お出かけ注意報”でそのデバフを打ち消すことができる。

晴れのHPデバフ、雨のMP減少デバフ、雷のLUK低下デバフ、強風の各スキルへのCT付与はどれも協力で今回のような集団戦ではとりわけ強力と言える。


「行くぞ!全員V-STARSに続け!ビスデスをできる限り減らすんだ!」


プレイヤー達が殺到し、次々とビスデスはやられ、軍の中でも強いデスティア達にも順番に手が伸びていった。

戦場は間違いなく、傭兵団有利な状態で進んでいく。


「団長!僕らも手伝います!」


ポラリスが率いるトッププレイヤー達がとうとうクロヌリの戦闘に介入する余裕ができた。

残っているのは強力とはいえ数の少ないデスティア達。そしてまばらに存在するビスデスもそのうち狩りつくされるのが見えた。


「アリスト!一緒に詰めます!」


ポラリスとデネブはクロヌリへと一気に距離を詰める。

しかしクロヌリは加速と減速を繰り返すことで常に距離を保ち続けた。


「俺を忘れちゃ困るなぁ!クロヌリィィィ!」


「先日の盾女か!」


ベガもまた、先日コテンパンにされたクロヌリへと飛び掛かっていく。


「邪魔だ!“チェインスナッチ”!」


ベガを鎖でつかんで放り投げる。しかしその瞬間を目の前の男は見逃さない。


「隙ありぃぃぃぃぃぃぃィ!!!!」


団長のシールドバッシュがクロヌリへと叩き込まれる。

さらにそのままクロヌリに馬乗りになった団長が顔面にその拳を叩きつけ続ける。

クロヌリは悔しそうに口を開き呟く。


「チッ……“バトル”……こんなに早く使うことになるとはな!」


マウントポジションを取っている団長を力任せに吹き飛ばしながらクロヌリは立ち上がった。


「これで第二ラウンドだ。覚悟しろ人間ども!ティラーどもぉ!全ては我らが女王のために!」


クロヌリの手には大きな黒い半透明の大鎌が現れていた。

それはまさに、自分たちの持つティラーウェポンと同様のものだと、プレイヤー達は気付くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る