1-14:エレクトリオン山

鬱蒼とした獣道を、草木をかき分け突き進んでいく。


「武器を杖にしてよかったな。」


地面を確かめながら進むのに杖はとても役に立った。

直接触れずに草木をどかし、ぬかるんでいるか、道があるかを確認できるのはこの強行軍においてかなりの優位性をもたらしていた。


「……そういえばここはダンジョンじゃないんだよな?だったら木の実なんかも拾えるのか?」


明らかにアイテムらしい赤い木のみをもぎ取ってみれば【コーランの果実】というアイテムとして拾うことができた。


「……一応適当に拾いながら行くか。」


ホーノットから購入したお菓子、というより砂糖をまぶしただけの豆のような何かを口に放り込みながら歩いていく。


「なんかこれ食ってると酒が飲みたくなるな。」


まだ部屋にはビールの缶が残っていただろうか。

そんなことを考えながら山頂へ向けて確かにその歩みを進めていく。


「あぁ、結構上まで来たな。」


草木が邪魔で見えないが、風が強くなってきた、なんとなく息苦しさを感じるようになった、そういうちょっとした“感覚”が標高の違いを感じさせる。


「“現実の体との同調律の設定100%”の恩恵ってやつかね?本当に現実みたいだ。」


そういえばちょこちょこ掲示板を覗いていたらあの少年、ポラリスは無事変質者として見られているらしい。


「わざわざ胸に押し付けた甲斐があったな……ざまぁみろってね。」


あの場から逃げ出すためとはいえちょっとサービスしすぎたかと思ったがあのバッドマナー少年に嫌な思いをさせたのなら何とも気持ちがいい。


「お、そろそろ頂上か……。」


草木が繁茂した山道が途絶え、岩肌が露出した場所まで登ってきたようだ。

あとは頂上まで50メートルも無さそうだ。

少し駆け足で頂上へと走りだしたグリーンはとうとう頂上へとたどり着いた。


「………………あぁ。」


強い風が吹いている。


不安定な足場はここが現実であると錯覚させる。


遮るものを失った大空はまるでグリーンを祝福しているかのようにその広大さを知らしめる。


「………………………はぁ。」


ため息が出てしまう。


自分の悩みが、くだらなく思えてしまう。


しかし一度頭にそんな考えを浮かべてしまったせいで自身の悩みに頭の中を支配される。


「……。」


頬を温かい雫が伝っていく。

それはやがて顎を伝い、首元まで一筋の光の筋となって。


「先輩……お父さん、お母さん……。」


唇は震え、喉は嗚咽を吐き出そうとヒクヒクと動く。

それを煩わしく感じるとまるで大空から逃げるように、太陽から目を背けるかのように。


「……。」


グリーンの体は小さく丸まってしまったのだった。


「……。」


「…………。」


「……………………。」


どれだけの時間が経っただろうか。

小さくなった背中に声をかけるものが居た。


「フフフ。これはどうやら私にもチャンスが巡ってきたということかしら?」


「……。」


そんな声は、今のグリーンにとっても聞き捨てならない言葉を吐いたのだった。


「私のものになりなさい、葉隠青葉ちゃん?」


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