1-5:アーティ&ウスト
テントの群に足を運んでみたはいいが、あまりに人が多いのでさっさとどこかのテントに入りたいと思っていたグリーンは人混みをかき分けるように進んでいった。
「……あぁ、ったく……どうしてこんな……あぁ、今日がサービス開始だからか……。」
無理やりに人混みを突き進んでいくと、突然強い力で押され、尻もちをついてしまった。
「お客さん、横入りなどの迷惑はご遠慮願いたい。」
見上げてみればそこに居たのは2メートル近い巨漢。
肩幅が他の人の倍はありそうなその男は、服の上からでもわかるほどによく鍛え上げられた肉体をしているのがわかる。
「あぁ?客ってなんだよ?アタシはまだここに着いたばっかなんだ。こりゃあなんだってんだ?どうしてこんなに人が並んでるんだよ?」
巨漢はなるほどといった様子で自身の後ろを指さして見せた。
「あそこにいるのは中央都でも大人気のアイドル、アーティだ。今回は西都までの予定だったんだがな。ハイデリオン傭兵団のほとんどがこっちに移動しているって聞いてここまで来てサイン会を開いてるってわけだ。」
よく見てみればさっきのモブと同じ軍服のような服を着こんだ男たちが一列に並んでいるようだった。
「あの先にそのアーティってアイドルがいるのか?でも傭兵団がいるからってわざわざ来たのか?」
巨漢はよく聞いてくれたと言わんばかりに饒舌に話し始めるのだった。
「そう、そうなんだ!アーティは2年前ダンジョンに迷い込んだところをハイデリオン傭兵団の団長に救い出されたんだ!それ以来ハイデリオン傭兵団には特別にサイン会やライブを開いてるんだ!いい子だろう!?」
目の前の巨漢が感極まると言った様子でだんだんと声が大きくなっていったことで注目を浴びてしまったようだった。
周囲の人たちがこちらをじろじろと見ているのがわかる。
「あぁ、わかった。わかったから迂回路を教えてくれるか?とりあえずハイデリオン傭兵団に入団するつもりなんだ。」
「なにぃ!?まさかアーティの姿を一目見ずに行くつもりか!?冗談じゃない!せめて俺の肩に乗せてやろう!一目見ればすぐにサインが欲しくなるだろうからな!」
巨漢の太い腕がぬっと伸びてくる。
その腕が腰に延びてきたところで高い女の声が響き渡ったのだった。
「お父さん!無理な勧誘はやめてっていつも言ってるでしょ!」
白いフリルの付いたピンクのドレスのようなスカート。ツインテールにキラキラとした飾りがついたその姿は少女向けアニメの魔法少女のようないでたちだった。
「アーティ!よかった、こちらは今日からハイデリオン傭兵団に入団する……誰だったか?」
「あぁ、グリーンだ。アタシのこの素晴らしい腰回りに手をかけてるのがあんたのお父さんってことでいいのか?」
その言葉で自分が女性の腰に手を回している事実に気づいたのか巨漢は慌ててその手を引っ込めたのだった。
「アーティはアイドルのアーティだよ!こっちはお父さんのウスト!よろしくね!グリーン!」
“これ、NPCなのか?いや、そもそも周りにいるのはここに来るまで一緒にいた奴らと同じ服装だしNPCだよな……?ならこいつらもNPCってことか……?”
「それにしてもすごいスタイルいいよね!グリーンちゃんも一緒にアイドルする?」
そう言ってこちらの手をしっかりと握って目を合わせてきたアーティとの間に一枚のシステムウィンドウが現れるのだった。
【中位権限NPCアーティよりユニークジョブクエスト“アイドルへの道”を提案されました。受諾しますか?】
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