1-4:戦闘セクションチュートリアル終了
半透明の杖を持ち、オオカミに相対するとオオカミはこちらを気にするようにゆっくりと立ち上がり、その鋭い眼光でこちらを威嚇してくる。
「さぁ、奴はもうお前を敵として認識したようだぞ!」
男の声と同時、オオカミがこちらへ向かって大きく飛び掛かってきた。
それを少し大げさに躱すとオオカミは鈍く輝くその爪でこちらの足を切りつけて再び距離をとった。
HPバーが削れ、少し短くなった気がする。
「よし、さっそく俺のスキルの出番ってわけだな!“Cスロット1・アクティベート”と叫べ!」
「Cスロット1・アクティベート!」
言われるがままに叫ぶと男が先ほど出した時のように手の中に丸底フラスコが現れた。
「そいつを体にかけるか、飲み干せ!飲み干せばHPを30即座に回復できる!かければ30秒かけて30回復する!」
ばしゃっと自身に丸底フラスコの中身をかけると液体はたちまち消えてしまった。
「あぁ、これ濡れないんだな?」
「CスキルはMPを使わない代わりに再使用時間が発生する!アイコンが暗くなっている間は使えないぞ!」
確かにフラスコのアイコンは暗くなっており、少しづつ元の色に戻っているのが見える。
「さぁ、反撃開始だ!“Aスロット1・アクティベート”と叫べ!」
「Aスロット1・アクティベート!」
そう言うと今度は半透明の杖全体が鈍い光を放ち始めた。
「ノーヴィスの初期Aスキルは“強打”だ!次にティラーウェポンで攻撃する際、スキルダメージを与えることができる!あの犬っころに叩き込んでやれ!」
「らぁぁぁぁぁ!」
走りこんで一撃。
杖はオオカミの鼻先を捕らえ、ゴキリという感触が腕に伝わってくる。
そして杖の光は消え、元の姿に戻る。
「デスビスは倒されたら黒い霧になる!まだ倒せてないぞ!もう一発“強打”をぶち込んでやれ!」
「Aスロット1・アクティベート!」
杖が再び鈍い光を放つ。
目の前でひるんでいるオオカミに追撃の一撃を加えると今度はオオカミの体が崩れ、黒い煙のようになって消えていった。
「今やった様にAスキルには再使用時間が存在しない。だが自分のMPを見てみろ。大きく減らしたはずだ。」
言われて青いゲージを見れば、半分以上減っており、全体的に6割ほど減ったように見える。
「さて、最後にPスキルの説明だ。かなり左の方に視線を動かしてみろ。普段は目にしないが経験値のログが見えるはずだ。」
顔を動かさずに左を見るというのは少し慣れが必要そうだがそこには“ウルフを倒しました。EXP11を獲得(+1)”という表示があった。
「ノーヴィスの初期Pスキルは“経験値追加獲得10%”だ。経験値のログの横に+1って書いてあるだろ?それだ。」
男はそう言うと指を一本立てて話をまとめ始めた。
「Cスキル、クローンスキルってのは他のティラーから教えてもらうことで使えるスキルでMPの消費は無いが再使用時間が必要になっている。すべてのスキルがクローンスキルとして教えてもらえるわけじゃねぇし、相手が嫌がればトラブルの元にもなる。気を付けるんだな。」
二本目の指を立ててさらに続ける。
「Aスキル、アクティブスキルってのは戦闘における必殺技ってやつだ。MPがあるだけ使えるが、逆に言えば一度MPを使い切れば相手によっちゃあ攻め時だってバレちまう。せいぜい気を付けるんだな。」
3本目の指を立ててまとめに入る。
「Pスキル、パッシブスキルはセットしたらずっと効果が適用され続ける。物にもよるが、デメリットとメリットを併せ持った奴なんかがあるからせいぜい小さな頭で考えるんだな。」
青葉は、いやグリーンは男の態度に苛立ちを隠せないでいた。
「おーおー、せいぜい小さな頭で考えさせてもらうわ。まぁ、もう会わねぇかもしれねぇけどな?」
「はっはっは!俺みたいな立派な先輩になれよ、後輩殿?」
「うるせぇ。」
モブAとかってアナウンスされてたが、意外に人間みたいなやり取りができるんじゃねぇかと思いながら草原を歩いていくと、大きなテントがいくつか並んだ場所についた。
「あれが、ハイデリオン傭兵団の西都サブキャンプだ。ここで俺とはお別れだ、せいぜい頑張ることだな。」
「あぁ、楽しむことにするよ。」
ここまでのチュートリアルを終え、新世界へやってきたという感動からか、“楽しむ”などという言葉がつい、口から出てしまうのだった。
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