1-1:ログインチェック
まるでロボットアニメのコクピットのような卵型の装置、その中のリクライニングチェアのような場所に寝転がりゲームを起動する。
ごちゃごちゃとしたアナウンスを聞き流しながら目を閉じるとだんだんと意識が薄らいでいく。
まるで夢の中へと落ちていくかのように、現実の世界を離れていくかのような錯覚と共に。
『こんにちは、葉隠青葉さん。』
声を掛けられたことで意識がはっきりとしていく。
頭の先から足の指先一本一本までしっかりと感覚が伝わってくる。
「あぁ、確かにこいつは“新世界”っつーか、なんつーかな……?」
『体の感覚になれませんか?細かい設定を行う場合お手元のウィンドウで設定をお願いします。』
まるで目の前に話し相手がいるような感覚を覚えるが、その“誰か”が見えないのは少し不気味に思う。しかし、そんなものかと心の中で納得して会話を続ける。
「……あぁ、これか。“現実の体との同調律の設定”ってのは20%がデフォルトなのか?」
『人間は、肌に感じる風の感覚やにおいによって周囲の状況の変化を感じることができる生物です。しかしこの肌感覚をこちらで現実同様に体感できてしまうと大怪我を負ったときなどに動けなくなったり、放心してしまったりなどの問題が発生する可能性があります。』
この説明に青葉は少し違和感を覚えた。
「……なぁ、それって例えば0%にしていた場合、他人にさわられても気づけないってことか?」
『その通りでございます。逆に言えば100%にしていた場合、殺されたときの感覚は現実世界で殺された時とほぼ同様の感覚となります。』
「でも例えば……あぁ、そうだな。森の中なんかを歩き回るとき、100%だと現実で森の中にいるような感覚になるってことだよな?」
『しかし殺された場合のショックは計り知れないものになりますが、それでもよろしいのですか?』
青葉はすでに100%に設定したうえでそんな質問をしていた。
「アタシはこのゲームに戦闘なんて求めてねぇのさ。ただ、世界のどこでもない、まっさらな世界を自分の足で歩きまわってみたいだけだからな。」
『80%以上に設定する方にはこの同意書への電子署名をお願いしております。』
いくつかの条項と、最後に赤文字で書かれた“いかなるトラブルも当方は責任を負わないことに同意します”の文字。
それにさらりと署名を行い青葉は次に進めるように促す。
『ではこれより担当が変わりますので少々お待ちください。』
またあの感覚が襲ってくる。
夢の中へと落ちていくかのように、現実の世界を離れていくかのような錯覚と共に意識が遠のいていく。
「初めまして。」
声を聞いて、意識を取り戻し、目を開くとそこには自分そっくりの姿をした人物が立っていた。
「さて、まずは君の名前を教えてくれるかな?」
ぼさぼさになった髪、無駄にデカい胸と細い腰、目の下には隈ができており、よれたシャツとジャージに身を包んだ女はその見た目とは裏腹に、とても明るく声をかけてきたのだった。
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