-花音-

母親は、可愛い可愛いと褒め称え太田さんも満足気な顔をしていた。自分で言うのもなんだが可愛いと思った。なのに前髪で顔を隠していたのは何故なのか…。


「花音様は、顔が可愛いのに前髪を伸ばして…勿体ないなって思ってたんですよ!やっぱりその髪型が似合いますね!」


きっと自分の存在を出来るだけ目立たないようにしてたんだろう。もしかしたら最初は、普通にしていたのに目をつけられて虐められるようになってしまった。


「そうなのね…」


鏡に映る自分に問いかけた。


-…その日の夜


母親に早く寝なさいよと言われ寝たフリをしたが、コソッと起きて勉強机に向かっていた。

渡された日記帳に復讐の作戦を立て一人一人にどうすればいいか考えている。


「まず宇佐美は、誰よりも自己顕示欲が強い」


俺が、転入すれば自分より目立つ存在が気に食わないと思うだろう。そこからゆっくりと何かしらのアクションを仕掛けてくるはずだ。


次に杉田…あいつだけは、許せない…

最後までじっくりいたぶってから地獄を見せてやる。


浅田は、誰よりも優等生でいたい人間。

あんなものは試験でトップに立てば何もせずとも本性を表すはずだ。


「あははは!考えるだけで楽しいな!あいつらもこんな風に楽しそうに作戦を練っていたんだ…」


持っていたシャープペンが、バキッと折れてしまった。


「うぅ…うっ…ぐっ…うっ」


こんなに悔しくて泣いたことはなかった。俺は、そんなに嫌われてしまうような人格だったんだろうか…。

中身が俺だったとしても外側は女だ…少しぐらい泣いてもいいだろう。


ドアの向こうで母親が、立っていたのを俺は知らなかった。


-…次の日


「うわー…目が腫れてるわ…」


きっと泣いたせいなんだろう。初めての経験だ…


「花音ー?起きてるなら朝ご飯食べてー」


「あ…はい」


目をゴシゴシ擦ると何も無い振りをしてリビングへ降りていった。


「おはよう、よく眠れた?」


「あ…うん」


眠れたような眠れなかったような…嫌な夢を見た気がする。


「眠れなかったのね…目が腫れてる。大丈夫?」


「大丈夫…ちょっと怖い夢見ちゃって…」


目の前に出された朝食のベーコンを口に運びながら母親とはすごいなと思った。娘の些細な違いが、わかってしまう。


「目玉焼き…美味しい…」


「そう?良かった」


もくもくと2人で朝食を食べる。

母親は、なにか書類を読みながら食べている。

仕事だろうか?

ここでなんの仕事してるの?なんで聞くのは可笑しいよな…。


「あのママ…」


「なぁに?」


「高校の事なんだけど……」


「あぁ、転入試験に受かれば進学クラスに行けるように手続きしてるわよ」


テーブルの下でガッツポーズをした。

これで高校へ入れば復讐が果たせる…。


「試験頑張るね」


「やる気ねー!花音なら受かるわよ」


朝食を食べオレンジジュースを飲み干した。

すこし弱っている体を早く元に戻せるように…。

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