-花音-

「え...」


目を開けると真っ白の天井が、見える。もしかして飛び降りたのに死ねなかったのか...。

これ後遺症残ったりするのか...いっその事死ねればよかったのに。心音の機械がピッピッとなっているのが聞こえている。


「...花音っ!!」


横目で見ると見知らぬ女性が、俺を見て驚いている。

ハンカチで口元を押さえ涙を流していた。


「花音?ママがわかる?...あ、そうね、先生を呼んでこなくちゃ!」


転びそうになりながら病室を出ていった。


「花音?誰と間違えてるんだ...?」


そう思いながら腕を上げてみるとそこには色白で細い手が見えた。気のせいだともう一度見るとそこには男の腕とは思えないほどの華奢な腕。


「成田さん!ほんとに目が覚めたんだね!」


医者と看護師、それから女性は、俺を見て驚いている。管まみれの体に呼吸器...どういう事だ?

俺は、学校の屋上から飛び降りたんだよな...。


「血圧計って!あと採血も!」


「あの...」


「どうしたの?花音?」


きっとこの女性は、母親なんだろう...涙を流しながら嬉しそうに俺を見ている。


「えっと..お...あたし...どうして?」


「覚えていないの?あなた...自殺を図って...運ばれてから1ヶ月眠りっぱなしだったのよ!もう...どうして首吊りなんて...」


首吊り?俺は飛び降りだぞ...どういう事だ?頭が混乱しすぎて意味がわからない。


「まだちゃんと記憶がないんでしょう。成田さん、ゆっくりでいいから思い出していこう。体はまだ安静だよ?リハビリもしないと歩けないからね。首の骨が折れていたけど奇跡的に手術して元に戻った。ほんとに奇跡だよ」


だから...俺は、首吊りなんてしていない。


「お母さん...?」


「え?あなたママって呼んでたでしょ?どうしたの?」


「マ...マ?何にも思い出せない」


ゆっくりでいいよと俺の手を握りママと名乗る女性は、涙を流しながらずっと微笑んでいた。


-...それから2ヶ月


毎日のリハビリを頑張って歩けるようになり体にも異常はなく退院が近いことを知った。


「これ...花音の日記...毎日書いてたでしょ?もちろんママは読んでないわ。パパに叱られたもの」


青い表紙に小さな星が、散りばめられている日記帳。


「ありがと」


抜け落ちた記憶...と言ってもこの体は俺のものじゃない。記憶なんて全くない。

ママは、必要な書類とか書いてくるからね、と1人にしてくれた。


「日記帳か...この子の記憶を読んでみるか...」


『4月12日 今日から新学期。中学からの友達と同じクラスになれた♡良かった!これでぼっちにならない』

『4月14日 玲奈が声をかけてくれた!クラスで1番の美人!Limeも交換してくれた!』


...楽しいクラスで友達もいて明るい記憶が書いてあったのは最初のうちだけだった。



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