-悪気のない悪意-
「宇佐美 ちょっと来なさい」
女子達と楽しそうに話していた彼女を呼び出した。
不思議そうな顔をしてこちらへ走ってくる。
2人で生徒指導室に向かい入れ席に座らせる。
「さっき宇佐美がくれたクッキーをな...」
「え?先生食べてくれたの?」
悪びれる様子もなくただ、嬉しそうな顔をして聞いてくる。彼女がなにか薬品をクッキーに入れたんだろうか?それとも...なにか偶然で...?
「...で?先生は食べてくれたの?美味しかった?」
先程の騒ぎを宇佐美に説明した。天野先生が食べたこと、泡を吹いて倒れ救急車を呼んだ事。
「天野かー...ハズレ引いちゃったのー」
「え...?ハズレ?」
彼女は明るく大笑いするとあーあーと大きな口を開けていた。
「そう!クッキーは5個入ってたの。そのうちの2つはハズレ♡先生!運がいいねー」
「お前...ハズレってなに入れたんだ?泡吹いて倒れたんだぞ!」
「ちょっと...大きな声出さないでくれる?えーとねー...除草剤♡もちろん致死量入れてないよん」
「当たり前だ!じょ...除草剤...?なんのために?俺をどーにかしたかったのか?」
彼女の思考が全く理解できない。除草剤をなぜ入れる必要があったのか...俺はこの子になにかしたか?考えがまとまらないまま宇佐美は続けた。
「は?あんたみたいなクソ雑魚教師なんてどーにかしたいなんて思わないでしょ?ただの運試しじゃん?良かったねー?先生がハズレ食べなくて♡あ、親に言っても無駄だよー?もみ消しちゃうから」
-...言葉が出なかった。
「話終わりー?もう教室戻るねー♡」
なにも言えなかったし何を言えばいいかわからなかった。
この事は職員会議で話すことになった。他の先生は警察に届けるべきだと校長に訴え続けたが...宇佐美の"もみ消しちゃうから"という言葉のせいなのか警察にも届けないし注意喚起もしない。ただ、生徒から不用心にものを貰わない事。そう結論が出ただけだった。
天野先生も胃を洗浄することにはなったが大事には至らなかった。除草剤が中に入っていたこと、校長には伝えたが
「そうですか、怖いですね」
他人事のように答えて終わった。宇佐美にはなんの罰もなし。子供のイタズラと言うが下手をすれば死んでいたかもしれないのに。
「なんなんだ...あのクラス」
頭を抱えるほど混乱している。進学クラスだからではなく善悪がわかる年齢だろう。これからが不安でしか無かったが担任をやめるということは学校も辞めなきゃいけないということだ。気をつけよう。
子供だからといって甘く見ていては行けないと改めて心に誓った。名簿に自分だけにわかるように要注意人物に印をつけた。
自習時間が終わりクラスに戻ると何事も無かった様に無言で生徒達は席に戻る。
「じ...授業を始めます。」
宇佐美に視線をやると小さく手を振ってくる。それをとてつもなく恐ろしく感じた。
他の生徒達はこの事を知らない。淡々と授業を進めているように見せたが内心は恐怖でいっぱいだった。
他の生徒も宇佐美のような心で俺やほかの先生を見ているんだろうか...。すると1人の生徒が
「ねえ?なんでさっき自習だったわけ?」
「他のクラスも自習だったみたいだよ」
ザワザワと生徒たちが騒ぎ始めた。
「ねえ?先生!なんで自習だったの?何かあったの?」
それを聞いてきたのは宇佐美本人だった。グッと怒りをこらえ厳しい視線を送る。
「ちょっとな。大丈夫だ、たいした...ことは...なかった...授業進めるぞ」
手汗が酷いのが自分でわかる。動揺を隠せていただろうか...他の生徒にバレないようにしなければ...。
宇佐美は、何も言わせないようにこちらをきつく睨んでいた。
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