-悪気のない悪意-

-...次の日


朝のHRを終え教室から出ていこうとした時


「先生!」


えーと...宇佐美か。明るくてクラスの中心にいる感じがしたのはわかった。


「どうした?」


「これ!クッキー!焼いたから食べてね」


そう言えば自己紹介でお菓子作りが趣味だって言ってたな...早速作ってきてくれたのか。


「おぉ!ありがと!またゆっくり食べるよ」


可愛くラッピングされた袋にクッキーが入っているのがさすが女子高生という感じがした。廊下にいた生徒がこちらを見てクスクスと笑っていた。


「えへへー!早く食べてね!ほかの先生にあげちゃダメだよ!」


「わかった、俺だけで頂くよ」


はにかむように笑うと彼女は教室に戻って行った。

可愛い所もあるんだなぁ...と心が温かくなった。


「お疲れ様でーす」


職員室に戻り授業の準備をしていると隣の席の天野先生がクッキーを見つけた。


「やだー!さっそくもらったんですかー?手作りー?佐倉先生人気じゃないですか!」


「そんな事ないですよ、お菓子作り趣味って言ってたのでついでに作ったのくれたんだと思います」


ハハハと笑って誤魔化した。照れているのがバレないように。


「ちょっと味見させてくださいよー」


"他の先生にあげちゃダメだよ"そう言っていたな...。


「家に帰って自分だけで食べるのでダメですよ」


「ケチー!」


天野先生のノリも生徒と変わらないくらいはしゃいでいる。俺と同い年なのに元気だな...。


「じゃあ、ちょっとだけ先生食べてあげてくださいよ?美味しかった?って聞かれたら困るでしょ?」


...それは確かにそうだ。感想を聞かれた時に食べていないと返答に困る。


「じゃあ、ひとつだけ」


ラッピングのリボンを解きクッキーを1つ取り出した。ハートの形をしていてなんとなく食べるのが気恥ずかしかった。


「もーらい!」


「あ!」


天野先生が取り出したクッキーを奪いパクっと口に投げ入れた。


「天野先生ー...それは不意打ちですよー」


「えへ...へ...うっ...あ...ゲフツ」


クッキーを食べた瞬間、天野先生が喉を押えデスクへもたれかかるように倒れた。


「天野先生!どうしたんですか!」


俺の慌てぶりにほかの先生達も駆け寄ってきた。


「どうしたんですか?」

「天野先生!きゅ...救急車!」

「水飲ませた方が良くないですか!」


クッキーを詰まらせたのか?天野先生の苦しそうな状態はどんどん激しくなっていく。口から泡を吹き冷や汗をかきながら喉元を掻きむしるような素振りを見せる。


「佐倉先生!天野先生はなにか食べたんですか?!」


たまたま職員室にいた保健室の先生が天野先生を抱き上げながら水を飲ませながら聞いてきた。


「お...俺が生徒からもらったクッキーを食べただけです...」


「ちょっとそのクッキー貸してください!」


クッキーの入った袋を渡すと中身を出し匂いを嗅いでいる。それをデスクに置き叩いて割ると小さな欠片を口に含んですぐに吐き出した。


「...これなんか薬品入ってます!中身が少し半生で緑色になってます」


.....薬品?!え?どういう事だ?俺にわざわざ焼いてくれたクッキーに?


「救急車まだですか?!」


「もうすぐ着くそうです!」


状況が理解できない。生徒から貰ったクッキーを食べた天野先生が苦しそうにもがいていて救急車まで呼んだ...。


-...それから5分もしないうちに救急車で天野先生は運ばれて行った。


"他の先生にあげちゃダメだよ"


宇佐美は俺にクッキーを渡す前にそう言った。

もしかして宇佐美は、俺だけにこのクッキーを食べさせるつもりで...あんな風になるのもわかっていた?




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