第69話 マニラの戦い

069 マニラの戦い


現地スパイから、この動きをいち早く察知した、鈴木軍も動き始める。

決戦の地は、フィリピン沖であろうか。

マニラを救援すべくポートダーウィンから九鬼水軍・小早川水軍が出港していく。

だが、情報が届いてからの出発、間に合うのだろうか。


情報は各島々に連絡船が存在しており、急速に広がっていく。

この広大な、太平洋でいかにして迅速に情報を伝えるのか、小早川隆景の苦心が伺える。


しかし、魔王の暴走は止めがたく、ストッパー道雪も未だ帰らず、ついに太平洋の覇権を決定づける海戦がスタートしようとしていたのだ。


マニラの竹中半兵衛の心の拠り所は、情報では、道雪も新型戦艦にてマニラ湾を目指すとのことであった。小早川水軍も金鵄島からやってくるという。

「これはありがたや!」竹中は海上から天に祈るのであった。



こうして、本当の王(天皇)の知らない場所で、大帝国と日本の一部の軍の戦いが、幕を切って落とされようとしていた。


このような情報は、であるため、情報統制が成されていたという。


イスパニア無敵艦隊は成れない土地(実際は海上だが)で苦難を強いられていた。

彼等が活躍した大西洋とは勝手が違った。

そして、食料や水を補給するためには、島に上陸しなければならないが、その悉くに敵側の砦が建設され、発砲してくる。


大砲で脅かしても、すぐに撃ち返されるという事態が続く。

そのような状態では満足な補給は出来ていない状態となった。


「一気にマニラの敵を蹴散らして、酒を浴びるほど飲んでやる」指揮官のデレクマンは悪態をついた。


五十隻の大艦隊が、マニラ沖に到達すると、敵の艦隊が縦列陣で迎え撃とうと風上から速度を上げてやってくる。


敵は風上に陣取り、有利を得ていた。

「撃て~~~!」大砲が何度も火箭を迸らせる。

彼等の大砲は口径こそ大きいが、鉄の玉である。

直接当たらねば死傷することは無い。そして大砲は舷側に集中しているため威力を発揮できない。


一方敵は、長距離ライフルで狙撃してくる。

所謂、現在の対物ライフル並みの攻撃力をもっているその銃は、舷側の甲板など簡単に貫通して人間を殺す悪辣な威力をもっていた。


「船を接舷して白兵戦だ!」不利と見てデレクマンは戦法を変更する。

しかし、それこそ敵の狙いだった。

通常のライフルの射程に接近すれば、高速で連射可能な極悪なライフル銃はこの世界には、鈴木軍にしかない。


次々と人間が撃ち倒されていく。

そして狙いは非常に正確であった。


一隻の味方が何とか敵の戦艦に接近し、鉤縄を投げて引っ掛ける。

その時彼らは、何かが飛んでくるのを見た。

放物線を描く何か。


甲板に転がったそれは恐ろしいほどの爆発を引き起こした。

柄付き手りゅう弾の投擲が行なわれたのである。

爆発が甲板上の船員たちをなぎ倒す。

そうなると、次々とそれらが投げ込まれる。

爆発が連続してアッという間に火の海に包まれるイスパニアの戦列艦。


「距離を離して大砲による砲戦を行え!」直ちに方針転換するデレクマンは、流石に優秀な提督であった。


数では圧倒しているのに、全くつけ入る術がない。

マニラの艦隊はたった5隻である。

未だ、オーストラリア艦隊(金鵄島駐留艦隊)の救援はついていなかった。

連絡が即時に届くわけではないのでどうしても時間差生まれてしまうのだ。


デレクマンは甲板で指揮をとっていたが、隣の副官の頭が弾けた。

「ウワ!」長距離射撃でデレクマンが狙われたのだが、船の揺れで狙いがそれた。


あまりの恐怖に少し漏らしてしまった。

何ということだ!明らかに、銃の射程に船は近寄せてはいないはず。

デレクマンの知識と鈴木軍の銃の能力には乖離があった。

当然のことである。無暗に高性能を追求した銃は、この世界の標準的な能力では製造することはできないレベルを実現していた。


無敵艦隊は未だフリントロック式銃、彼ら(鈴木)は後送式ライフル銃しかも金属実包である。

端から勝負になるわけもない。


だが、今は五十対五で優勢に海戦を行っていた。

激しい戦いを続けたが、無敵艦隊が勝利をつかむことはできず、陽の入りとなり終戦となる。


既に四十八隻になっていた。

距離を離したことにより、敵艦隊は、攻撃の速度を緩めた。この距離をとれば、味方が来援するまでの時間稼ぎが可能なのだから、無理に戦う必要がなかったのだ。


金鵄島(オーストラリア、ダーウィン)から主力艦隊、日本から支援艦隊が此方に向かっており、時間がたてば必ず逆転できることを知っていたからである。


マニラの街にいたスパイたちが夜に動き出す。

街に火を放ち、碇泊中の船に戦闘員を送り込もうという作戦であった。


深夜に火の手が上がる。

カンカンカン!夜中の街に非常事態を知らせる鉦が打ち鳴らされる。


「敵は夜襲に来るぞ、海を見張れ」

竹中半兵衛は、マニラ艦隊を指揮していた。

今日の海戦で敵はこちらの銃砲の威力に恐れをなして、近寄ることが出来なかった。

当然絡め手を使ってこちらに奇襲をかけてくるであろうことは、推測していた。


その動きに乗じて、夜の海中には、爆薬(樽爆弾)を抱えた工作兵が泳いで近づいてきていたのだ。

カンテラが海面を照らす。


その時兵士がまたしても何かを海に投じたのである。

カンテラの光を避けるため工作兵らは、海中に潜っていた。


ド~~ン!水柱が上がった。

それも何本も。


水中にもぐっていた工作員はまともに鼓膜を破壊された、そして海面に浮かびあがるしかなかった。水中で爆発すれば対応のしようもない。


柄付き手りゅう弾は水中でも爆発するのである。凶悪この上なかった。


工作兵は、心身喪失状態あるいは死亡して浮かんでいた。

バババン!船上から銃で彼らは止めを刺された。


こうして、イスパニア側の夜襲作戦は完全に阻止されたのである。


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