第67話 製鉄所

067 製鉄所


南半球で小早川隆景が復帰を望んでいた戸次道雪は、豊前国にいた。

豊前国は、すでに戸田勢源の一族が一帯を支配している。


豊後国はそもそも、戸次の家が代々大友家に仕えていたころからの知行地であり、近い場所に存在するため状況をよくわきまえている。


彼らは、後に八幡と呼ばれる地域にある工場を建設していた。

鉄を司る鍛冶師芝辻一門、化学部門を司る望月出雲守と甲賀者、窯業の信楽衆、大工衆百瀬氏、船大工衆(各水軍から集められた)と産業に関わる人物たちが集められ、この地でひそかに作られていたのである。


それは、製鉄所である。


その指揮をとっていたのが、戸次道雪、吉弘鎮理らである。

彼らは、もともとの親族が、豊後にいたので、彼らを呼び集め自分の配下として組み込んだ。


鉄鉱石は、明から輸入され、石炭は筑豊地域から集められた。

だが、石炭には、硫黄が大量に含有されており、製鉄の素材にすれば、硫黄が鉄の中に入り脆くなる。


「そんなことは分かっておる、を作るのだ」その男は言った。

何を言っているのかすら不明の状態だった。

コークスとは何ですか?と聞こうものなら、と言い出すが、作り方は、石炭を蒸し焼きにするのだという。いかにも、この男らしいであった。


いかにも奇妙な男だった。昔から。ずっと。

それらの助言を実際にクリアしてこれたのは、望月出雲の知識と経験と勘である。

望月は男の奇妙な発言の被害によくあった。


例えば、かびである。

黴からペニシリンを抽出せよとの指令が下った。

全く意味不明ではあったが、聞けばある程度のヒントは得られたので、ペニシリンは誕生した。

そして、それは人体実験され、効果を確認することができた。

効く効かないはあれども、歴史的には公表されていないが抗生物質はこうして作られたのである。


このような経験が、今回も生きたのである。

こうして、八幡製鉄所は密かにこの地に作られひっそりと稼働し始めていた。

日本で最初の製鉄所であった。これも歴史に公表されることは無いだろうが。


「しかし、鉄をこんなに作ってどうしようというのか」

「殿のことであるから、大砲を鉄製にせよということであろう」と道雪が、望月の問いに答える。

「儂がきいた話では、鉄の板を作れと言っていたぞ」こう言いだしたのは、芝辻翁である。

「板ですか?対鉄砲の防御板かもしれませんな」


だが、製鉄に目途がついたと返事をすると、次々とあらたな命令書が届き始めるのであった。

男は一体何を目的に製鉄所を立ち上げたのか?


しかもこの製鉄所には莫大な資金が必要だった。

それらは、石見銀山、菱刈金山の貴金属の売却や堺の丹波屋の収益などで捻出されていた。


しかも、莫大な資金を投資したにも関わらず、曲者が現れれば、直ちに爆破廃棄するという命令が発せられており、各所に強力な爆薬が設置されている。

それだけの秘密が隠されているのであろうか?

今一つ、働いている者たちにはわかならかった。


だが、この製鉄所を占領できそうな大名は、この日本には、明智十兵衛光秀しかいないであろう。

彼は、京都所司代として強大な権限を有している。

征夷大将軍ではないものの、ほとんどの大名が彼の命には逆らえない。

彼の後方には、天皇がいるのである。勿論、国外に娘婿の鈴木重當もいる。


今や京都は、文化の都であり、あらゆる風雅がこの街に詰まっていた。

日本の天皇は、すでに朝鮮半島、琉球、台湾、フィリピン、インドネシア、シンガポール、オーストラリアなどの国々の名目的な王なのである。(現在の地名に準拠)


そして、これらの領地から珍奇な宝物が送られてくる。

彼らは、この戦国時代で最大の栄華を極めていたのである。

そういう意味では、朝廷の権威に対して、崇敬の念をもっている明智が京都所司代でいることは彼らにとってはとてもありがたいことであったろう。



「近ごろ、明智様が良いように使われているように聞こえてきます」

竹中半兵衛が咎めるような口調で言い始めた。


ここは、金鵄島(豪州大陸のこと)ポートダーウィン要塞の一室である。

あまりにも領土が広すぎるために、情報もすぐに入っては来ない。

金鵄島自体も広すぎて何がどこにあるのかわからないほどの大きさである。


「あ奴は、真面目ゆえな」

「しかし、このままではどのように転ぶかもしれません」


天皇家が明智を使い権力奪取を狙っていることは、以前から囁かれていたことである。

「まあ、明智だからな」男にはある歴史的事象の知識がある。

主君殺しである。


「だが、竹中よ、日本くらいくれてやっても儂は全くかまわない」

「何をおっしゃっているのですか、殿の本願地の紀州は、すぐ隣なのですぞ」

紀州は畿内ではなく、近畿(畿内に近いという意味)である。

紀州では、最新の技術が秘匿されている。


だが、その技術自体もすでに、確立され知識として国外に移転が進められている。

紀州に残る部隊も志摩の真珠もすでにいつでも放棄できるように準備がなされている。


「ようやく戦乱が終わりを告げたというのに、又も始めるというのであれば、儂は構わない」

男の口から意外な言葉が出る。


「まさか、それが殿の狙いですか」

「まさか、そこまで狙ってはおらぬ」


「それに、十兵衛は我が義父に当たる。戦にでもなれば、ここに呼び寄せる。ここは嫌になるくらい広い、人はいくらでも必要だ」


「では日本は?」

「天皇に任せればよいではないか、日本の王なのだからな、しかし、日本の貴族は君臨すれども統治せず故、民は苦しむであろうな。移民の受け入れの準備してやってくれ」


何事もなかったかのように、その男は言った。

もはや、日本など眼中にもないのだろう。


そうなのだ、中国からすれば浮沈要塞として役立つだろうが、日本自体は、平地が少なく、住みにくい。しかも資源も豊富とは言えない。


この男にとっては、この豪州を?にする方がよほど良いという考えに至っている。

そういう意味で、文化的侵略も進めている。

原住民たちは徐々にその支配に絡めとられつつある。


共通言語としての日本語が奨励されていた。




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