第66話 金鵄島
066 金鵄島
豪州北西部ポートダーウィンに上陸し、原住民族の長たちを懐柔した鈴木軍は、一部を分割し西回りで南部のパースを目指す。そして、アデレード、シドニー、メルボルン(地名は現在に準拠)などを目指すことになる。かなりの長期航海になる事が予想された。
彼らは、初めて、この豪州大陸を切り開く者になるのである。
その航海には、原住民のアボリジニも同道することになる。
彼らは、この大陸を開拓する人間といえるのだろうか。
そもそも、住んでいたはずなのだが。
しかし、史上初の偉業となるのである。
この大陸は、とにかく大きいのだが、人間が居住するための土地は、面積に比して少ない。
内部のほとんどは砂漠地帯であったり、熱帯雨林であったりとなかなかに住みづらいのだ。
故に、住める部分は海岸沿いにならざるを得ない。また、交通手段も船に限られるので自然とそうならざるを得ない。
日本史上初の快挙を達成。
九十九島、金鵄島などと名がつけられるこの島のことは、日本の天皇にも報告される。
そして、その島の統治については、鈴木重當に全権委任される。勿論征蛮大将軍(鎮南将軍ともいう)の管轄でもあるから当然なのだ。
誰も、日本から数千キロも離れた島に行きたい者などいるはずもなく、しかも単なる島で原住民も存在するという。誰が好き好んで領主となるであろうか。
都では、やはり重當殿は変わり者でおじゃる。と誰かが揶揄の歌を詠んだという。
こうして、金鵄島と呼ばれるオーストラリア大陸の領主に鈴木重當は成りおおせたのである。
彼らは、この島が、日本の20倍もあるなど知るはずもない。
世界地図などないのだ。
まあ、仮に反対するものがいたとして、治めに来いと言われても、誰もくることはかなわなかったのだが。
ミンダナオ島、ボルネオ島から建設部隊が連日到着している。
兎に角、至急に港湾整備と砦を建設するために必要である。
ボルネオ島の一部ブルネイには、かなりの城塞を建築している。
石油資源の確保のためである。
大量のフィリピン人を動員して突貫作業が繰り広げられていく。
そして、その横では、アボリジニたちに、教育が施されていく。
「自然神の象徴がこの八咫烏様である」
「君たちの精霊は、太陽の化身から力をいただいているのです」
謎の宗教『八咫烏神教』を無理やり、原住民の現地信仰にこじつけていく。
始めは反発もあったが、拝めば、利益があるのだ。
ここでも、飴が配られている。実際に飴や食い物、酒たばこなどが配られている。
「お館様」仮の城塞において、小早川隆景が、重當に語り始める。
「どうした」
「九鬼水軍が、このオーストラリアの開拓に向かいましたので、我らの水軍が現状で半分となっております」
オーストラリア周遊の旅には、水軍主力の九鬼艦隊が10数隻の戦艦を引き連れて出発したのである。
故に、ここには、数隻の戦艦しかいない。
各地にも戦艦を配備(根拠地は、マニラ湾である)しているためである。
これは、小早川隆景が率いる艦隊である。
「で、どうした」
「はい、少し戦力が少なすぎませんか」
「うむ」
明らかに、戦力が少なすぎるのであった。
しかも、この基地がある程度の区切りをつければ、ニューギニア島攻略に向かう予定であった。
「カステリャーノの動向が心配です」スペインのことである。
かなり彼らの土地を荒らしているのである。
かつてのポルトガル帝国がスペインに併合される事態が発生した。
ポルトガル帝国の領土はスペイン帝国の領土となった。(スペイン王がポルトガル王を兼任した)
彼らの根拠地はジャワ島やインドに存在する。
そして、今や『太陽の沈まぬ国』となっている。
それを邪魔している国こそが日本、ひいては鈴木軍である。
台湾、フィリピンからオーストラリアに達する縦のラインを構築し、太陽を沈めようとしていたのである。
参謀部には、そのジャワ島方面での情報も入ってくる。
現地人を諜報員として雇っているのである。
「彼らは、無敵艦隊なる物を有しておるそうだ」
「無敵艦隊!」小早川隆景が絶句している。
無敵艦隊の当初の討伐対象は英国艦隊であった。
しかし、ジャワ島発情報によれば、アジアの異教徒どもをまずは蹴散らす必要があるのではないかと、上申されているらしい。
流石に、無敵艦隊全艦がわざわざやってくるとは思われないが、それなりの分遣艦隊がやってきてもおかしくはない情勢であることは事実である。
「香辛料を欧州で売れば相当の金になるらしいではないか」
「そうなのですか」
「うむ、ぜひとも、東インド会社を設立するのだ、香辛料利権を手に入れて、経済帝国を確立させるのだ!」
しかし、東インド会社とはなんだろうか?
隆景には、わからなかったが、香辛料貿易で巨万の富を手に入れようとしていることだけは分かった。
この男は一体何を作り出そうとしているのか。
先が見えないほど巨大になっていた。まだ先があるとは、隆景もさすがに疲れを覚えた。
そもそも、『金鵄島』などと言って帝に奏聞しているが、日本などよりはるかに大きいことは、明らかだった。何となれば、ミンダナオ島でもボルネオ島でも『小さき島』などと遜って書かれているが、明らかに相手に誤解を与えようとしていることは明白だった。
すでに、こちら側から見れば、日本こそ『小さき島』であった。
「隆景、思案中にわるいのだが、(九鬼)澄隆の艦隊に船を出してくれ、おそらく追いつけるであろう。」
「は、」
「実は、この豪州には、タスマン島という島が南東の端にあり、そこをさらに東に行けばニュージーランドがあるのだ、それらも縄張りするように伝えてくれ。これを出せば、もう彼らは、2,3年は帰ってはこれぬかもしれん」
とさらにとんでもないことを言い始める始末であった。
これは不味い、とにかく道雪殿に早く戻っていただかなければ!
隆景の心には焦りの感情が激しく渦巻き始めた。
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