第64話 シンガプーラ
064 シンガプーラ
1582年(天正10年)
シンガプーラは攻略された。
現在のシンガポールである。
このころのシンガプーラには、西欧の植民軍が存在しなかった。
少し前まではいたのだが、今は別の場所に移っているのである。
原住民こそいたものの、驚異的な武力を発揮する軍隊が上陸すると、反抗できるものなどいない。嘗ていた紅毛人などよりもはるかに獰猛で、武器の威力も桁違いである。
それに、交易に関連したフィリピン人が、通訳として意思疎通したため大きな混乱は発生しなかった。得意の大虐殺は起こらず円滑に制圧できたのだ。
双頭の鷲の旗が翻る。
シンガプーラ(マレー語発音らしい)とはライオンの街という意味らしい。
しかし、彼らは、シンガプーラとは呼ばずに、昭南島と呼ぶ。
良く聴けば、鷲ではなく鴉の旗であるという。
倭人のいうことはよくわからんが、とにかく、逆らわないことだ。
キレると刀を抜く攻撃性の高い民族なのだ。
自分たちの宗教を強制はしないが、拝めば、食い物や酒、嗜好品などを恵んでくれるという。
貧しい孤児たちが早速集められる。本来は、台湾島に送られるところだが、人攫いの疑いをもたれてもということで、同地で育てられる。
言語は日本語である。
あっという間に逆転現象が発生する。
今までは、哀れなみなしごだったものが、今や、この島でもっとも文化的な暮らしをする人間になったのである。
多くの人間が、鈴木軍の部隊への入隊を希望したとしても仕方のないことである。
彼等こそ歴史上最凶で裕福な軍団なのであるからだ。
こうして、原住民による『シンハ(ライオン)』部隊が発足する。
昭南島自身は要塞となるべく、土木工事が開始される。
ローマンコンクリート工法による築城である。
港湾の整備も行われ、正に海軍基地と化していく。
この地は海上交通の要衝中の要衝である。
ここを抑えられると、マラッカ海峡を通行することができなくなるという大変な影響が出るのである。
『シンハ』の訓練は実戦である。
すぐそこにマレー半島が存在するのである。
彼らは、訓練もそこそこに、戦地へと送られる。
その代わり、最新鋭ではない火縄銃を持たされている。
かつて、雑賀銃とよばれた倭の最強兵器である。
そして、ルソン、ミンダナオの現地兵も駆り出されていた。
目標は、ボルネオ島である。その中でも、ブルネイ湾は重要拠点として大量の兵士が動員されていた。
このボルネオもブルネイこそ交易の拠点であったが、それほどの西洋勢力はこの時存在していなかったのである。
一方、倭軍(鈴木重當軍)の本体は、マニラで、気候になれるため訓練に励んでいた。
あまりにも、南方に来すぎていた。四季のある土地から、雨季と乾季の土地に来たのである。
対応は難しい。そういう意味でも、現地兵は重要で、大量の金品をもって動員していたのである。
だが、その土地から得られる産物を輸出すればすぐに元が取れることは火を見るよりも明らかだった。彼らは、商業を重視する。
そして、今だ真珠養殖の秘密は破られていない。
それどころか、黒真珠まで登場し、西洋世界を席捲していた。
今迄よりも真珠が大きくなり、色が黒いのだインパクトが絶大だ。
養殖する貝が大きいので、玉が大きくなるのだ。
しかし、その一方でついに、スペインポルトガル勢力圏と接触する地帯まで踏み込みつつあったこともまた事実である。というかすでに現地では、小規模の戦闘が散発していたが、まだポルトガルは、その全容を把握しきれていない状況であった。
というのも、イエズス会士たちは、次々と逮捕、追放されていたのである。
彼らはマカオで孤立無援になりつつあった。
戦力が整っていない現在、まだ直接対決には適していないと参謀部が判断していたのである。
だが、この昭南島攻略でいよいよ、戦雲は近づきつつあるかにみえる。
時間は少し遡る
1580年の欧州イベリア半島。
巨大なポルトガル帝国であったが、王が戦没し、武力による圧力に屈する形でスペインに併合されることになる。そもそも、スペインはポルトガルから生まれた国なので、元に戻ったという考え方が正しいのかもしれない。
だが、この事態により、スペイン帝国は、ポルトガルの植民地をも所有することになり、『太陽の沈まぬ国』となる。
太陽の沈まぬとは、太陽が地球上のどこを照らしていても、そこにはスペイン(植民地)が存在するのだという意味らしい。
そして、この瞬間から、スペイン国王フェリペ2世はアジア太平洋方面で蠢動する倭寇どもを撃滅するために『無敵艦隊』の建造を開始することになる。(無論、核になる艦船は存在していたが、より長距離を制覇し、敵倭寇(日本海賊)を撃滅するために増強するという意味である)
コンキスタドール。
アジア海域でのさばる、無知蒙昧で増長した異教徒どもを殲滅させねばならない。
そして異教徒どもから奪った財をもって、キリスト教を曲解している英国なども撃破せねばならない。(スペイン国王の主観です)
彼は強く、神へと祈りをささげるのであった。
彼こそは、神から地上へと遣わされた使者であるからである。
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