第60話 次の標的
060 次の標的
1577年の新年の宴は、琉球本島要塞で行われた。
日本在住の武将は、このために、薩摩から船でやってきたのである。
1576年の1年間に行われた戦闘の反省会が行われ、その後無礼講の宴会が行われる。
この宴会には、台湾の諸部族の長も招かれ、鈴木家の力を誇示される形になった。
但し、このころになると、鈴木家というより巨大な勢力が複数存在するようになり、どれが鈴木家かどうかがわからなくなっている。
近畿に明智、中国に毛利、四国に長宗我部、九州に島津、関東に上杉と一端均衡が崩れればまたも戦国大戦を起こしそうな状態でもある。
また、同勢力ではないが、朝鮮半島には、織田軍が存在する。
此方は、急速にその影響力を増加させていた。
例の海戦と艦砲射撃による攻撃が、その名を高めていた。
そして、あれは、娘婿の勢力(つまりは、儂の勢力)と吹聴しているからである。
織田軍と満州族が朝鮮国境で相対している。
彼ら、満州族は、その艦隊の攻撃力を恐れるようになっていた。
一方の鈴木家では、対欧州貿易により、莫大な富を集めていた。
主要輸出品目は、真珠、黒真珠である。
英国経由で関節的に、今や欧州で無敵の国となったスペインとも交易をおこなっている。
そのような、危うい状況にも関わらず、重當は、全く揺らぎない。
彼ならこういうだろう。日本が欲しければやる、と。
「次の攻撃目標は、ルソン島である。この戦いでは、海洋帝国であり、コンキスタドールであるエスパーニャとの闘いが予定されている。我ら、八咫烏信徒の力を世界に示すのだ。徹底的にやれ、白人どもの影響力を完全に排除するのだ。我が子らの奮励努力を期待するものである」
彼の目標は、これらフィリピンを含む島嶼と海洋の資源、金属および石油資源の確保を目指しているのだった。
いまだ、石油の用途は定まらず。発見もされていないが、確かに、その周辺には確実に存在した。
このころ、ルソン島は、スペインが領有を宣言して間もないころである。
それをすべてひっくり返す戦いを興そうと考えていたわけである。
だが、それは単なる誇大妄想と言い切ることができるはずもなかった。
台湾戦争で、やはりかなりの少数の戦死者しか出さず、版図を大きく伸張させ、しかも高山部族、倭寇の残党を配下に加え、さらに、日本本土から、増えすぎた戦闘員を受け入れることにより、台湾では、10万以上の兵士を招集することが可能だった。
朝鮮侵攻軍などとは比べることもできないほどの死傷率の低さであった。
さらに、この太平洋にあって、連合艦隊に敵すべき艦隊は存在しない。
このころ、スペインは無敵艦隊と呼ばれることになる艦隊を要していたが、それはあくまでも大西洋での話であり、この太平洋の無敵艦隊こそ、連合艦隊であった。
連合艦隊を撃破するために、無敵艦隊を回航してくるには、時間も費用も掛かる。
それに、拠点の整備でも、連合艦隊に分がある。
連合艦隊の拠点は、台湾、琉球、紀州である。
無敵艦隊は、かなり遠い、例えばメキシコ、インドなどであった。
成算は充分にあったのである。
ただし、このような考えに至る人間は、戦国時代には発生しなかった。
そういう意味では、異質な男だったのである。
そして、この時このような事象が進んでいるなど、スペイン人が知る由もない。
1577年3月某日、連合艦隊および倭寇のジャンク船団は、台湾高雄港を出撃しルソン島を目指す。
彼我の距離は250Km。
数日で到着する距離であった。
リンガエン湾に、連合艦隊の威容が現れる。
彼らに、交渉の意思などない。
コンキスタドールとは、征服者である。
つまり、武力による原住民の制圧を行うのである。
そして、このころの最強の武器は、銃である。
だが、それは西洋での基準である。
原住民は火力に圧倒されるのだ。
だが、そのような常識に従わない軍隊が存在していた。
連合艦隊である。
近寄る船に、銃撃を加え次々と撃沈していく。
そして、近寄る船がなくなると、ダグパンの街に艦砲射撃を開始する。
辺り一面が火の海に包まれすべてを吹き飛ばすような猛撃であった。
スペイン人であろうと、中国人であろうと、現地人であろうと、すべてを粉砕する。
火薬に配慮などはない、全てが破壊対象であった。
圧倒的破壊の後に、倭寇軍が、上陸を開始する。
彼らは、ミャオ刀を片手に、片手に籐の盾を持っている。
所謂、籐甲兵を模倣したものである。
籐の盾は、竹で補強されている。
機能するかどうかは不明だが、拳銃弾程度なら、効果があるかもしれない。
倭寇兵が突撃し、正規兵が援護体制を組む。
反抗するものすべてを撫で切りする。
無抵抗な市民の虐殺は禁じられてはいたが、倭寇にそのニュアンスがどこまで通じているかは不明だった。
その上陸から、10日後、連合艦隊は、マニラ湾に姿を現す。
上陸軍は、ダグパンから、マニラを目指して侵攻している。
そして、艦隊は、海上からの艦砲射撃でそれを援護するためだった。
さく裂弾が火柱を噴き上げる。
街は大混乱である。
盛んに炎を噴き上げる街を見ながら、男は「私は、帰ってきた!」
そういったという。来たこともないはずだが、そういったという。
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