第57話 台湾島
057 台湾島
台湾島は、中華では『
中国皇帝の威光の及ばない土地。はたまた、辺境でそのような場所はどうでもよいという意味なのか。
そして、この時代、台湾島は倭寇たちの住処、海賊たちの根城として多くの国籍不明の人々が争う土地となっていた。
倭寇のほとんどは、すでに日本人(倭人)ではなく、まさに中国人、朝鮮人などが主力となっていた。いわゆる後期倭寇勢力である。
琉球を完全要塞化に成功し、義父の織田上総の要請で明国海軍拠点を壊滅させた、連合艦隊の攻撃目標は、まさにここだった。
歴史の空白をついて、台湾を掌握し、その支配権を獲得。歴史上にも確定させるための行動である。
頭のおかしい男には、歴史の認識が非常に重要だったのだ。
昔からここの土地は、この国だったという認識が固まる前に固めてしまおうという妄執があった。勿論、男の頭の中には、台湾は帝国領土という認識が刷り込まれている。
ただし、この場合、西洋文明が決定する前という大前提がある。
その西洋文明こそが帝国主義を行っているこの時期にそれが可能なのかどうかは、いささか心許ないといわざるを得ないのであった。
島の沿岸の各所には、倭寇たちの砦が存在するような、無法地帯となっていた。
勿論、倭寇同志でも争っている。
台北。
その日、倭寇の砦の一つから、それは目撃されることになる。
明らかに、ジャンク船とは違う造りの大型船が、沖に姿を見せる。
「敵襲!」鉦を打ち鳴らす見張り員。言語は中国語である。
その砦には、中国人倭寇が200名ほどいた。
倭寇たちが飛び出してくる。
木で作られた塀の上から沖を見ると、大型船が次々とやってくる。
そして、沖10町の距離で船が腹を見せるように並んでいく。
「なんだ!あれは」倭寇の頭目が叫ぶが、勿論答えをもっているものがいるはずもない。
「明の艦隊かもしれません」(これらの会話はすべて中国語で行われている)
しかし、マストにたなびく旗旒は明らかに違っていた。
所謂、旭日旗、そして、双頭の鷲(本当はカラス)、そして漢字『鎮南大将軍』。
確かに、職名は中華帝国で使用された職名ではある。
しかし、他の旗は明らかに違う。
「近づいてきたら問答無用で攻撃するぞ!」頭目がそう命令した瞬間。
件の艦隊の舷側が火を噴いた。
彼らがその発砲音を聞いたその時には、砦は爆発に巻き込まれた。
「完全に粉砕しました」
「よし、上陸開始せよ」
基隆(キールン)周辺の倭寇砦はすべてが同じような運命に見舞われた。
続々と海兵師団が、上陸を開始する。
彼らは、この日の為に、琉球本島で、熱帯雨林地帯での戦闘訓練をこなしてきたのである。
その日だけでも5000人以上の海兵師団が上陸し、陣地構築を開始する。
簡易陣地の構築を終えると、艦隊は、琉球とのピストン輸送を開始する。
永久陣地構築の資材と兵員の輸送を繰り返す。
安宅船を改造した輸送船も使用されている。
最初に上陸した部隊と共に、今や最凶となった奄美九鬼兵団が、周辺の倭寇陣地を襲い続ける。
彼らが使用している新兵器は実に恐ろしい物だった。
それは、キャノン砲製造に注力していた技研が開発した武器。迫撃砲である。
キャノン砲はやはり、今ある技術では難しいものであった。
技術陣が、男に泣き言をいった。
「まあ、キャノン砲は難しいかもな」
「はい、相当難しいと思われます」
さすがに設計図があったとしても、それに伴う製造機械がないと難しいのである。
その製造機械の設計図はないのだ。
「まあ、がんばってやれ、そういえばもっと簡単にできる奴を思い出したぞ」
そういって取り出したのが、迫撃砲の設計図だった。
確かに、明らかに数段簡単に作れそうだった。
何故先にこれを出さないのか!技術陣の頭はそう思った。
だが、そんな疑問は無駄である。
男の頭はおかしいのだ、言ったところで詮無いことなのだ。
だが、じゃあこれといって出てきた迫撃砲は、悪魔の兵器であった。
簡単に作れ、持ち運びも簡単、扱いも簡単という、まるでどこかの牛丼のような兵器だったのである。
そして、誰もそれに対処できないのだ。
敵兵士たちは立ち尽くし吹き飛ばされていく。
この曲射砲は、塹壕戦でも威力を発揮するのだが。
半年で、キールン永久要塞の基本形が完成する。
ローマンコンクリート造りの半永久要塞である。
各所に、大砲や対物ライフルが設置され周囲を睨む。
周囲の森を切り払い、水たまりをつぶしていく。
そして、大量の蚊取り線香と消毒。マラリア阻止のための処理が行われていく。
島津、毛利、長宗我部、譜代の家臣の陸上部隊も次々と到着してくる。
台湾北部は完全に掌握された。倭寇たちは南部に逃げた。
戦いにまで発展しないほどの圧倒的攻撃力の前に、手も足も出なかったのである。
だが、それでも夜襲などで、戦いを挑んだ勇敢な倭寇たちもいた。
しかし、接近戦こそ、恐るべき戦士たちの本領であった。
近ごろめっきり、刀を抜く機会の減った彼らはこれ幸いと抜刀した。
死と隣り合わせの戦いこそ武士の本懐である。
彼らは、喜々として血みどろの死闘を繰り広げた。
彼らは『
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