第53話 非常識
053 非常識
上陸部隊は、周辺の敵兵力を捕縛、無力化していく。
反抗する村民たちも同様である。
そして、満を持して工兵部隊が次々と上陸してくる。
彼らは、コンクリートによる築城を担当している。
輸送船が、コンクリートの材料を運んでくる。
実は圧倒的武力よりも、その後に構築される要塞の方が何倍も厄介である。
そして、それはこの時代の防御戦術などではなく、より先の未来で必要となる、陣地構築方法である。
半地下の施設、コンクリによる強硬度の塹壕やトーチカ。しかも各所に大砲を設置、ライフルによる武装兵の配置、軍用犬による哨戒など、およそこの時代の常識からはかけ離れているのだった。
種子島、屋久島、そしてこの奄美大島とそのような要塞が設置されてきた。
既に、何度もやってきた実績が、素早い的確な動きとなっている。
ここは、真珠大名九鬼義隆の拠点となる。
彼は、この要塞を起点に、黒真珠養殖を実現するのである。
あこや貝よりも黒真珠の黒蝶貝は、かなり大きいので、黒真珠は真珠よりも大玉になる。
適した湾を調査するためにも、全島掌握を素早く行う必要があるわけだが、すでに、島民の多くは完全に戦意を喪失していた。
たった一晩の攻撃はあまりにも圧倒的過ぎた。その情報が島中に伝播した。
そもそも、この島は、琉球に支配されていただけで、支配者が今度は少し頭のおかしい大名になったところで問題は特にないのだった。
其れよりも、殺されぬように逃げるか、降るか。その見極めこそが重要であった。
そして、多くは降る方を選ぶ。
降伏すれば、今までの生活は保障される。という触書が所々で立った。
場所場所では、トラブルも発生したのだが、反抗した島民はその場で、銃殺された。
恐るべき小型銃が一部の兵士に配布されていたのである。
リボルバー拳銃だった。
何れは、実戦配備されるだろうと思われていた武器が、ついにバネの製作が軌道に乗ったために可能となったのである。
将に、鉄を制するものが世界を制するのであった。
島民の中で、素潜りの得意な人間が集められ、海中の貝探しをさせられる。
彼らは、水練が得意ということで、海兵への入団を強制されることになる。
漁師も同じである(船や航海に精通しているという理由)。
そして、1週間後。
それは、首里城の尚王にもすぐに伝えられた。
奄美大島に敵艦隊発見!の報からたった一週間。
一体どうしたらそうなるのか!
王朝では、奄美攻略で疲れて、帰ったところを再度攻略すれば何とかなると考えており、あまり深く考えていなかった。
そもそも、琉球本島では、統一戦争が終わり平和になれていたし、敵が攻めてくることもなかった。加えて、北の土地のように食料と住居がないとすぐ死ぬというような厳しさがないことも、島民の性格に大きく影響していたのである。
寝返った奄美の武士たちが、征蛮大将軍の書状をもって参内してきた。
言葉も独特なためその方がよいのではないかと黒田あたりが考えたことであろう。
「昨日の敵は今日の友。彼らと戦えば、そのままあの世に行ってしまう」
「奄美では、多くの者が死んだ。たった一時間で」彼らは、夜襲の為に基地に集められていた。そこを砲撃されたため、かなりの死者がでた。
寝返った数名の奄美の高位の武官がそういった。
「明に援軍を要請しておる」と琉球の文官。
「明軍はこない。彼らの仲間が朝鮮半島に攻め込んだそうだ。きっとそちらの救援に向かっているはずだ、とのことだった」
「明自体が、すでに腐敗してどうにもならないともいっておられた」
と今度は奄美の武官が口々に言いはじめる始末だった。
そもそも、敵の艦隊が、目の前の湾に集結しているのに、援軍を頼んでもいまさら遅いと言わざるを得ない。
「それでも我らは王朝の為に戦う」と琉球魂を見せる文官。
「そういうと思って、彼らは力を誇示するといっているのだ」
「明後日に、金武湾でその威力を示すそうだ」
「きっとそれを見ればあんたらの考えも変わるだろう」と奄美の武官たちは帰っていった。
身の安全と食料、あれば酒も確保できれば、彼らはあまり深く考えないのだ。
そして、それらは用意されており、配給されているのだった。
特に本土の酒は、すこぶる評判が良かった。
奄美の武士たち(かつては王朝の支配下だった者たち)は言いたいことをいうと帰っていった。
・・・・・・・・・・・・・
そして、その日密かに、尚王朝の臣下と王が見守る中で、それは始まった。
島嶼上陸作戦演習。海兵師団による、上陸作戦とその支援砲撃が演目である。
艦隊はサンゴ礁の浅い部分を避けて、できるだけ陸近くへと侵入。
さく裂砲弾が、白砂の浜を爆発させる。
砂の柱があちこちにできる。
勿論、その場所に人はいない。
それでも艦砲射撃は、熾烈を極める。
すでに、観客の有無など気にすることない本気の攻略演習だった。
次々と小早を降ろして、兵士たちがそれに乗船していく。
皆が、背嚢を背負い、小銃を肩にかけて乗っている。
全員が、今度は小早の漕ぎ手となって、濛々と煙が上がっている砂浜へと上陸していく。
敵などいない、しかし、兵士たちは、伏せの状態を随時とり、周囲を警戒、射撃を行いながらどんどんと前進していく。
ある程度進むと、スコップで蛸壺を掘り出す。
そして、砂をどんどんと壁にしていくのである。
艦砲は、そのさらに前方に撃ち込まれる。
より前方の敵を撃破するための射撃である。
小早が何往復も繰り返し、兵員その次は物資と輸送していく。
橋頭保を確保し、演習はそこまでで終了するが、上陸した兵士たちはそのままである。
その日、2000名の海兵隊員がそこに上陸した。
尚王朝は、まさに踊らされたことを知るが、すでにどうしようもなくなっていた。
あまりの砲撃の激しさに、ほとんどの者たちが、腰を抜かしていた。
そして、兵士たちは完全武装で、全員が例外なく銃で武装している。
このような軍隊に帰れと言える人間はそこに居なかった。
数日後、尚氏は降伏した。
彼らは、琉球での生活を認められるが、武装解除される。
次期王となる息子が、日本本土へと人質として送られる。
行先は京都。
京都所司代、明智光秀の屋敷であった。
こうして、尚氏による琉球王朝は終焉を迎えたのである。
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