第52話 夜襲
052 夜襲
深夜、所謂丑三つ時、精確に日本時間が制定されていたわけではないので、日本各地では違うかもしれない。
小舟が数隻近づいてくる。
柴や油などを積んだ船である。
別の船には、戦闘員を満載している。
鍵縄で船上に上り、船員を殺傷、船の破壊を行う。
だが、艦隊参謀は、夜襲は充分に発生することを予見していた。
そもそも、彼ら自身がそういう戦い方がとても得意な人間が多いのだ。
小舟群がほぼ10間(20m)に近づいたとき、光が小舟を照らす。
龕灯が海を照らしたのである。本来の龕灯の光源はろうそくであるが、これはアルコールランプが使用されていた。
夜間警戒のとき、たいまつやかがり火を燃やすのを見た男は、これでは火事の原因になりそうで怖いな。といったのである。
そもそも、たいまつでは、指向性がないので漫然と明るいので、「これでは、目標を確認できないではないか」と難癖をつけたのである。
「それでは、どのようにすればよいのでござろうか」
「夜目が効く我らのように、夜目の訓練をされるがよろしい」と望月が勝ち誇ったように言う。
「あれが有るだろう、ガンドウが」
「ガンドウとは何でしょうか」
「知らないの?時代劇で、奉行所の役人が使ってるでしょう」
そう、龕灯(がんどう)は、時代劇で出てくるのだが、発明は江戸時代であった。
この時代の人間が知るはずもない。勿論、時代劇を見たことのある人間はいない。
彼等こそ、大河ドラマに出るべき人々だからである。
こうして、適当な知識で、望月が作らされることになった。
ろうそくが光源だったらしいという男の言う通り作ったところ。
「ろうそくだと、すぐ消えるから、アルコールランプのほうがいいんじゃない?」と軽く否定してくる。
こうして、陶器製のアルコールランプとそれを光源とする龕灯が完成したのである。
煌めく光が海上を照らす。
「撃て~~!」すでに準備万端の兵士が海上に発砲する。
小舟の兵士たちが次々と海に撃ち落とされる。
「手りゅう弾投擲~!」
数名の兵士が導火線に火をつけて、柄付き手りゅう弾を放り投げる。
夜襲部隊の船上はひどい状態になっていた。
突然、強力な光の照射を浴びたと思ったら、いきなり銃撃を受ける。
船上では、火縄の縄が燃えているような感じは全くなかったのに。
火縄に火がついていると、どうしても煙が上がるのである。
ヒュン、ヒュンと銃弾が飛来して、味方の体に食い込む音が聞こえる。
暗闇の海上では、非常に不気味に聞こえた。
海面でもピチュン、ピチュンと飛沫を飛ばす。
怖ろしく精確な射撃だった。
その時、水面がいきなり爆発して、彼らを海へと投げ飛ばしたのである。
「作戦を開始する、空砲を発砲せよ」艦隊司令、小早川隆景は命令を下す。
夜襲を受けたならば直ちに、反撃する作戦計画であった。
戦艦、金剛の大砲が空砲を発射する。
夜の静寂を切り裂く空砲の大音声。
それが、敵地潜入している忍び、彼らは本当の忍びではない。
既に、特殊作戦軍の隊員は、忍びのようなことをするのだが、生まれ素性は、すでに伊賀甲賀ではない。
訓練を施された兵士である。
数か所から火が立ち昇る。
夜には、月と星しかないため、非常によく見える。
潜入した隊員が火をつけているのである。
それは、そこを目標に大砲を撃てという意味だ。
「照準」砲術長が命令する。
厳しい訓練を受けた砲術課の隊員、彼らは、大砲の大家の指導で徹底的に数学物理を叩き込まれ、素早い行動で、大砲を早く精確に発射しなければならない。
「照準よ~し」
現地の潜入工作員の逃げる時間を5分として、それは行われる。
「1番発射!」
「1番発射~」
戦艦8隻が、一発づつ発射していく。
それは、照準の精度の確認のための射撃である。
街が爆破されていく。
狙い通りの場所に行くものもあれば違う場所もある。
さく裂弾は、辺り一面を薙ぎ払うのだ。
修正が完了し、撃ち方準備完了の声が聞こえる。
「全砲門、撃ち~方始め!」艦長の命令が出される。
「撃ち~方始め!」砲術長が命令を復唱する。
ドンドンドン、方舷7門の大砲と甲板上の3門が連続して火を噴く。
艦隊全体で、80発の砲弾が、ヒュ~ンという飛来音を残して飛んでいく。
バ~ン!落下した場所で大爆発が連続する。
そこは、奄美大島の守備隊の基地を中心としている。
夜の街に火柱が連続して立ち昇る。
集弾率は非常に高かった。
夜襲を行ったため、兵たちは、基地に集まっていた。
彼らは、飛び散って行方不明になった。
唐手の使い手も剣豪もこの攻撃の前では、同じだった。
皆が吹き飛ばされた。
そして、幸運にも生き残った者たち、街の人々は、その心に大きなダメージを追ってしまったのである。
こののち、彼ら島民は、旭日旗を見るとなぜかおびえてしまうようになる。
三本足の鷲の旗を見ると、平伏してしまう。
決して逆らうことができないような精神状態になってしまったのである。
朝、日が昇り始めると同時に、海岸に小舟にのった海兵師団が上陸していく。
彼らは、散開しながら小銃を構え前進していく。
だが、決して敵が出てくることはなかったという。
こうして名瀬湾周辺の攻略は終わった。
だが、この島広い、東部、西部にも集落がある。
戦いは始まったばかりであった。
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