第51話 奄美大島

051 奄美大島


地図を見れば明らかだが、奄美大島は琉球本島にほど近い(現在は、鹿児島県だが)。


この時代では琉球王国の領地である。

だが、琉球王国は、所謂二股外交を展開している。


明に対して朝貢外交を行い。明の領土の一部として認められている。

一方、島津家あるいは日本に対して忠誠を誓うという形をもとっている。

そもそも、どちらからも海を隔ててかなり遠い。それがすべてである。

攻められぬようにして、自分が王としてこの地方を支配しているのである。


琉球は、いくつもの島があり、難所の多い地域である。

血で血を洗う戦いを繰り広げてきたこの地域。誰が好き好んで支配下になろうか!

琉球王は当然そのように考え、今は臣下になった者たちもそのように考えている。

一戦交えれば、我らの恐ろしさも身に沁みるであろうと彼らは考えていた。

しかし、本土の戦国時代は、それ以上に苛烈であった。


琉球王朝には、そのようなぬるい雰囲気が漂っている。

彼らは戦えば恐ろしい猛者となる。同数の戦いになれば十分勝機があり、敵は糧道が細ればおのずと撤退するに違いと信じていた。


そういうような事情が今までもこの国を曲がりなりにも独立を成功させてきていたのである。


頭のおかしい男の考えでは、奄美大島の明け渡しを受け、本島は、尚氏(琉球王朝)に任せてもよいとなっていた。男にとって琉球すら通過点に過ぎないのである。

ここで、戦力をすり減らす気は全くないのである。


そのために、明軍を朝鮮半島に向かわせる策を弄したのである。


だが、読み違いは案外足元にあったのである。


案外に好戦的民族なのであった。

琉球唐手(当時はそのように呼ばれていないが)と呼ばれるものが存在するように、決してただやられるだけの人々ではない。そして、それは奄美大島の人々も同じである。

彼らは、彼らで、琉球とは違う(今は征服されているが)と考える人々であった。


征蛮大将軍からの書状は当然のように無視された。

それを見越して、大艦隊は錦江湾に集結し、補給を行っていた。

彼らの戦艦(ガレオン船)は風さえあれば前進することができる。

そして、外洋航行も可能であった。

和船は、外洋航海には向かない。

男は頭がおかしい分そのような事情を事細かに知っていた。

艦船建造の歴史を勉強させられていたからである。


そして、春の季節の良いうちに侵略を開始する。

夏が過ぎれば、台風が襲う地域、時期は非常に重要である。


三本マストに風をはらみ太平洋を疾走する艦隊。

波を切り裂き進んでいく。

途中、屋久島で食料・飲料水等の補充を行い、ついに、攻撃目標の奄美大島近海へと至る。

攻撃目標に奄美群島の島々は入っていない。

彼らの戦略は、本島のみ占領し、要塞化すれば周辺諸島に逃げた者がいたとしても、撃退はたやすいと考えられたためである。


島の人々は敵がわざわざやってきて攻撃するのは難しいと考えるのは当然で、追い出されればやはり、わざわざやってきて攻撃するのは難しくなるのである。船による攻略というのは、一筋縄ではいかないものでなのであった。


先ず、占領というものには、歩兵が必要である。

船に乗れる人員は限られている。占領用の歩兵と操船用の船員。そして、それらを支える補給物資。とにかく大規模になり、大変なのである。


旭日艦隊の搭載兵員は、1隻当たり、500名を超える。

これは、上陸用兵力のみである。

体調管理などを無視すれば、その倍は簡単に載せることが可能なのだ。

但し、戦艦は沖に居ながら、艦載艇(かんさいてい)で上陸を行わなければならない。

この艦載艇が、少ない分上陸に時間が掛かるという問題点も持っていたのである。


そして、艦艇が姿を現すと、沖に錨を下ろす。

名瀬湾(奄美大島)に艦隊が集結する。


海の底が見えるほどにすんだ海。

しかし、あまり奥深くまで侵攻すると座礁の恐れがあるため、沖に停泊したのである。


このころには、倭寇も活発でこのあたりまでたまにやってくることが有るが、撃退されていた。奄美大守は、周辺の島民を集め、撃退する準備に入る。

つい先日まで、琉球と闘っていた彼らの戦闘経験は豊富である。

敵軍が上陸してくるまえに、バリケードを築き応戦するのだ。武器も十分にあった。

倭寇程度なら十分追い払えるはずだった。


いささか、ジャンク船とは形状が違うが、そんなものは関係ない。

奄美大守はそう考えた。


そして、不気味な艦隊を夕闇が包み始める。

海洋の状況の関係で夕刻に到着したのであった。


奄美大守は、まず小舟による夜襲を考えた。

彼らはこちらの情報を十分に知らぬために恐れているのに違いない。

船に近づいて、火をかければ簡単に敵は燃え出すだろう。


簡単に撃退してやる。

密かに闘志を燃やす奄美大守だった。



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