第50話 威圧
050 威圧
征蛮大将軍(鎮南大将軍)から琉球国主への書状。
日本国天皇の命に背き、異を唱えるは不忠不義の行いなり、直ちに、服するベし。
服さぬ時は、天皇より詔勅を賜りし、穂積重當朝臣が、天に代わり誅伐す。
琉球王朝にこのような脅迫状が届いたのである。
時に、1573年元亀4年(天正元年)の春であった。
「穂積とは誰の事じゃ」
「は、おそらく鈴木大和守かと思われます」
この間、脅迫に来た者たちは、鈴木家家臣だったのである。
確か奄美大島を引き渡せなどと寝言を言って帰っていった連中がいたのが思い出される。
彼らは、本土からかなり遠いので、そのようなことを脅威とは全く考えていなかった。
しかし、日本が脅迫してくるならば、明王朝にも一応知らせ、援護を要請しておくことにした。
明王朝が攻めるといってくれば、本土に救援要請をするつもりだった。
どちらからも、遠すぎるのである。
使者が、明に到着したころ、問題は起こっていた。
このころの明王朝は、末期を迎えており、あちこちで問題(騒乱)が起こっていたところである。
そのようなときに、またも問題がやってきたというところであった。
明にとって、琉球は外地である。最盛期であれば軍船をしたてて、日本本土を襲うようなこともできたろうが、さすがに今の状態では無理がある。
しかも、問題はそこではなく、すでに朝鮮半島でも起こっていたのである。
日本軍が、朝鮮王朝に半島の半分の割譲要求を行ってきていたのである。
明らかに、武力攻撃を準備しているとの情報があった。
対馬に基地が整備され、半島攻撃の準備を行っていることを、朝鮮のスパイがつかんでいた。
織田・徳川連合軍5万が侵攻準備をおこなっていたのである。
信長は、義弟のいう通りまずは、釜山を攻略し橋頭保を築くことを第一の目標にしていた。
そして、朝鮮に難癖をつけて戦端を開こうとしていた。
徳川は乗り気ではなかったが、乗らねば、三河が攻略対象になりそうなため仕方なく追従している状態であった。
兵士数が不足気味のように思うが、そこは銃を多用することで其れを解消する予定であった。3000丁以上の火縄銃が用意されていた。本来は、1000丁も用意する金がなかったのだが、残り2000丁は義弟が出世払いで用意してくれたのである。
「今後もよろしくお願いします。」
今井宗久がそういって品を届けていった。
弾と火薬は自分で買ってね。と書状には書かれていた。
織田軍の朝鮮攻略は、自らの琉球攻略に役に立つためこのようなことをしているのである。
さすがの大国明にしても、2方面に軍を出すことは至難の業である。
そう、これも全盛期の明ならやってのけることができたであろうが、今は内憂外患の状態でありどうしようもない手詰まりだった。
それでも、陸続きに異民族が異を唱えることは、許し難し。
明は援軍を朝鮮半島にさし向けることになる。
一方、釜山港に、巨大な戦艦群が姿を現した。
それは、釜山上陸を支援するためにやってきた、旭日艦隊であった。
その数9隻。すでにまた3隻が増えた。
そのうちの1隻だけは艦形が違う。これは、英国の海賊が身代金として持ってきた英国製戦艦である。英国製戦艦『金剛』と名付けられた。
命名はある男がしているが、誰も異を唱えることはない。
「何故、金剛なのでしょうか」と聞いた男がいたらしい。
その男は、「英国製戦艦は『金剛』とつけるしかないのだ」と答えたという。
未だ日も明けやらぬ早朝である。
「撃ち~方始め!」小早川隆景の命により艦砲射撃が開始される。
片舷7門、上部甲板3門の大砲がさく裂弾を発射する。
発射炎が薄暗がりを切り裂く。
9隻90発のさく裂弾が、港湾周辺に着弾する。
次々と火柱が立ち昇り、辺りを吹き飛ばす。ただの鉄の弾では不可能は殺傷範囲であった。
織田信長と徳川家康はその光景に驚きを隠せなかった。
「何じゃ!あれは!」
「・・・・」
彼らは、安宅船であとからついてきている。
この艦砲射撃は、上陸支援のための艦砲射撃。
「義兄は、私よりも先に戦闘していただくため、先に我が艦隊に支援させましょう」
義弟は、攻略日時を自分よりも先にさせるために、この申し出をしたのである。
街が燃えていた。
安宅船が釜山港に入ってきたとき、第三斉射目が行われる。
守備も何も関係なく、辺り一面を薙ぎ払うかのような攻撃だった。
住民の小屋などは爆風だけで簡単に倒れた。
直撃すれば木っ端みじんに吹き飛ばされる。
それでも果敢に小舟に兵士たちが乗り、戦艦に向かっていく。
乗り移って攻撃するためである。
だが、その勇敢な兵士たちは、恐るべき攻撃を受けことになる。
マストの上部には、監視用台ある。海上での見張りのためものであるが、そこに、狙撃手が乗り込んでおり、接近する者たちを狙い撃ちにするのである。
狙撃手の銃は、すでにスコープ装着で連発可能のボルトアクション後送式ライフル銃であり、有効射程は800mである。
甲板上にも銃手が準備している。
此方も同じ銃を構えている。
見張り台のライフルが吠えた。
次の瞬間には、甲板上でライフルが火を吹く。
小舟の乗組員の体に弾が食い込む。水面に小さな水柱が上がる。
十字砲火を浴びる小舟の船員たちは次々と倒れた。
2艘、3艘と次々と射撃の的になる。辺り一面が血の海へと変えられてしまう。
まさに、凄惨な眺めであった。
「撃ち方止め~!」安宅船が彼等より前にでたため、射撃が中止される。
あちこちで火災が発生し、濛々と黒煙が立ち昇っている街を背に、艦隊は動き始めた。
次の目的地に向かうためである。
種子島基地で食料弾薬を補給して、南蛮制圧に向かうのである。
因みに琉球は勿論南蛮に含まれていなかったはずだったのだが。
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