第49話 旗下

049 旗下


上杉輝虎自身は、今すぐにでも鈴木家傘下に入り、自分の息子(まだ生まれていない)に後を継がせ、引退したいと考えていた。娘が生まれたどうするつもりなのか?

勿論、婿を貰ってやればいいではないか。


さすがに、家臣たちが半狂乱になって内紛でも起こされるとまずいので、そのようなことはおくびにも出さない。しかし、我が子ができれば当然跡継ぎである。

そこには、文句は出まい。いや出させぬ。


ナディアの方の美しい姿が瞼の裏をちらつく。「はあ、何と美しい」

輝虎すっかりおかしくなっていたのである。



金鵄八咫烏城に、来客が訪れていた。

彼らは、この城を初めて見たが、今までの城の概念を覆すようなスタイルに度肝を抜かれていた。まさに概念が違うので仕方がない。銃砲を攻撃の中心に据えればこの星型が主力になる。


彼らは、結局この城を訪れた。

自分の領土を確保するために、配下の家臣となるよう申し出に来たのである。

武田軍の猛攻が関東を席捲している。このままでは、自国の領土が危ない。

とられる前に差し出して、その一部を確保する方が得である。それだけ武田軍は圧倒的に強かった。


宇都宮広綱、芦名盛氏、佐竹義重が平伏していた。

もともと、彼らは何度も戦ってきた仲であるが、今度ばかりは勝手が違ったのである。

関東勢で小ぜり合う状況は終わりを迎えていたのである。

あとは、連合して武田軍を撃退するしかないような状況が現出していたのであった。


「是非とも御助力を賜りたい」鬼義重の異名を持つ武士が言った。

「うむ、そうか。三国同盟を周旋したのは、儂だ。その影響がこのようなことを引き起こしたのじゃな」そうなのである。後方に憂慮なく前進できる武田軍を作り出してしまったのである。


「是非とも」

「わかった。しかし、いくつか条件を飲んでもらうが、良いか」

そう来るのは、わかっていた。

国の半分を差し出せ位は言われても仕方がない。

そもそも、鈴木軍は、それこそ三国同盟の壁を抜けねば、東日本には来れないのだが。


「まずは、一つ目、関東管領に忠誠をもって仕えてほしい。」関東管領とは、誰あろう上杉輝虎の事である。

「は」

「二つ目は、義重殿は、我が旗下に入りその腕を振るってほしい」

「・・・は」佐竹義重は、しかなく変事を返した。


「各々方には、現状の領域で存続を認める。ただし、儂の息子として子供を人質に出してほしい」

これは、予測されていた。養子は大名になっているものもいる。これが彼らにはわからなかった。何をしているのかと。彼らは、洗脳という方法のことを知らなかったのである。


「義息子の輝虎には、キチンと手助けするよう申し伝えておく。武田にも、わが臣下に手を出さぬよう、周旋しておく」と男。

「有難き幸せ」


「臣下となったからには、土産を用意してやろう、しばし待たれよ」

「はは」そうして、男は退出していった。


「では、義重殿は、手兵を連れて、この金鵄城に参上してくだされ。」

「宇都宮、芦名のおふた方も、大和の守様の臣下として、義重との同様の兵力の供出をお願いする」

こうして、関東の三国から9000名の兵士が徴兵されることになる。

「しかし、それでは我が国の守りが!」

「ああ、それは問題ありますまい、わが軍もつかっていた銃を土産として差し上げ、それ以外は購入という形で差し上げましょう」と対応に当たっていた黒田官兵衛がいう。

「ですが、」

「訓練は、こちらから師範を送りますのでご安心を」

簡単に言うと何百丁かの鉄砲を売りさばかれたのである。

旧式になった火縄銃の処分でもあった。



一通の書状に、武田信玄は苦虫を嚙み潰す。

「宇都宮、芦名、佐竹は、わが臣下と相成ったゆえ、手出し無用の事」

それは、鈴木大和守から書状だった。

「儂も、引退の年がきたのかもしれんな」信玄は、宙を睨んだ。

北条や安房の里見などが残っているが、もはや北への進路を絶たれたのである。

尤も、力の源泉を知る信玄は、雑賀鉄砲なくして覇道を進むことはできない。


関東の戦もついに終戦が見えてきたようだった。

そうすると、今度は兵士の処遇である。大きな領土を得た武田だったが、それぞれに、土地を与えねばならない。北条軍もほぼ飲み込んだ大所帯であった。


兵士を今度は農民に変換せねばならない大事業が残っていた。

そんな時である、鈴木大和守、南蛮大将軍に親補される。という凶報が届く。

これは、以前から海外を目指している大和守の戦略の第一歩だった。

すでに、九州攻略が終了したことを意味するものでもある。


武田信玄は征夷大将軍になり損ねたということである。

現状、征夷大将軍は、越後に幽閉されている足利義昭である。

それを覆すためには、関東圏の支配が必須のことに思えた。しかし、彼らは、武田を恐れ、鈴木に身を投げたのである。どんな悲惨なことになるかもしれないのに。


全く悲惨なことは起こらなかった。

余分になった兵士は、余さず鈴木が収容し、領土はそのままで残されたのである。

臣下同志の死闘は厳禁であるため彼らは戦う相手すらなくなり、国の発展しかすることがなくなってしまったのである。


なぜ、このような狭い国土で相争わねばならぬのか?

男の疑問は、尤もなことである。

世界は広い。切り取り放題ではないか。

そのためには、兵も金もいるだろうが。

戦国大名達は、世界の広さを理解できなかったことは仕方がないだろう。


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