第48話 三国同盟3
048 三国同盟3
こうして、怪しげな計画は実行に移された。
「嫌なら、すぐに帰ってくるのじゃぞ」とその美しい手に縋りつく男。
「父上、行ってまいります」船に乗る娘の方がはるかに男らしい姿だった。
彼女も情報は聞かされており、謙信が独身であることを知っていた、だめなら帰るだけ。金鵄城内から少しでて旅をしてみたかったというのもある。
彼女は箱ならぬ城入り娘だったのである。
結果的にいくと怪しげな作戦は全くうまくいった。
それから、謙信はすぐに還俗し、輝虎を名乗ることになる。
そして、どうしても、ナディア姫と婚約させてほしいと書状が届けられたのである。
「彼女は女神、毎日崇拝しなくてはならぬ故に」
「謙信は坊主のくせに、何をしらじらしいことを言ってやがる!生臭坊主、破戒坊主め!ナディア~!」と男は絶叫したが、城の奥に連れていかれたのである。それから3日間、彼を見ることはなかった。座敷牢に閉じ込められていたのである。
かくして、輝虎は鈴木大和守の娘と婚姻を結び、その後、子(妊娠)ができた。
そうして、話は先の三国会議に至るのである。
複雑な三者の関係となっていた。
上杉輝虎は、鈴木大和の義息子となった。
織田信長は、鈴木大和の義兄である。
武田信玄は、長男を鈴木大和に預けている。
そして、軍事力でいえば、戦国時代の双璧が上杉武田である。
織田は、尾張・美濃を領土化したものの、畿内方面には、その義弟の領地。
北上するには、武田か上杉を倒す必要があった。
そして、新年の宴会での会談の内容である。
織田は、朝鮮半島にでるしか領土拡張の道はなかったのである。
こうして、大和守の斡旋で三国各国の領主が不戦同盟を締結し、後顧の憂いなく朝鮮半島侵略を目指すようにとの書状が届けられた。
「しかし、本当に良いのか?」信玄が信長を見る。
それは、朝鮮出兵の事を指す。
「ハハハ、さすがに鉄砲武装している武田軍に突撃するような愚か者はいますまいからな」
信長はやはりこの戦国の両雄を恐れていた。
「儂は、義父上の命じゃから、異議はない。」輝虎は義理堅い人間なのである。今は、生まれてくる子供のことばかり無想しているのであった。
<まあ、織田が攻めてこぬなら、関東は切り取り放題か>信玄がそう心のうちで考えている。
「武田はあまり欲をかかんようにな」と何気に輝虎がいう。
こころの声を聞き取ったのであろうか。
「では、三国不戦同盟はこれにてなれり、ということで良いのでござるな」と信長。
うむ。他の二人もうなずく。
これに、先だって、鈴木から織田に書状が送られている。
朝鮮半島を攻めるなら、新型銃と大砲を供与することにやぶさかではないとのことだった。
その三国同盟の情報は、東日本に伝わると大きな反響を呼んだ。
さらに、相模の今川が武田に攻め落とされるとさらに動揺が急速広がっていく。
関東平野の宇都宮、芦名、佐竹などは、身の危険を感じ、上杉に泣きつきに行くことになる。
武田対今川の戦いが決着すれば、次は自分の番であることは必定であった。
そして、何よりも武田軍は強かった。
軍神と呼ばれた男とその軍勢は極めて強かったのである。
特に鉄砲隊が脅威であった。
「どうか謙信公のお力添えをお願いしたい。」北関東の諸大名が越後に日参している。
軍神に対抗するためには、軍神しかいない。それが彼らの出した結論であった。
「残念ながら、我等が同盟しているのは存じておるであろう。儂は、自ら同盟を破る訳にはいかん。これは我が義父が斡旋したものであるのでな」
彼らは、軍神がすでに軍神でないことを知った。
なぜならば、その顔は朗らかで、もうすぐ生まれる子供の事ばかり考えているからである。
「関東管領様!どうかご慈悲を!」義理堅いこの男を動かそうと誰かが言ったのである。
「なるほど、そういう役職についていたな」輝虎はそういった。今思い出したといったような感じであった。
「そこまで言うなら周旋はするが、そちらは儂の提案は飲むまい?」
輝虎の眼が久しぶりに厳しくなった。
「どのような案でございましょう」
「我が義父は、世界を見渡されているお方、この狭い日乃本にとどまることをよしとしないお方。貴殿らの領土など必要とされてはいないが、もし貴殿らが、自らの土地を守りたいのであれば、義父の配下に馳せ参じるしかないのではないか?」
輝虎の考えでは、たとえ武田がどのように伸張しようとも、鈴木に勝てる機会は訪れない。
なぜならば、彼らの強さの半分は鈴木筒の威力のお蔭である。なくなれば、彼らに勝ち目はない。そして、火薬、弾の輸入は、国外に頼る以外方法はないため、もともとの内陸国の武田ではほぼ不可能である。しかも、鈴木は無類の海軍強国でもある。
そもそも、彼らが本気を出せば、日本統一も十分可能であった。
そうしなかったのは、兵力を海外に派兵するために無駄な出血をしたくなかったからなのだ。
上杉謙信だったころ、このような結論に達した輝虎だった。
今はそんなことはどうでもいい。生まれてくる息子に、自分の領地を安全確実に継がしてやりたい、それだけだった。そのためには、長生きしなくてはならない。
輝虎はそのことばかり無想していた。
毘沙門天の化身が我を救うてくれたのじゃ!
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