第45話 地獄のブートキャンプ

045 地獄のブートキャンプ


種子島での訓練は、蛸壺堀り、格闘、射撃、水練などの基本的なものである。

但し、この世界で、これほど猛烈な訓練自体あまり存在しない。

訓練すれば飯を食わないと死んでしまう。

兵士とは主に、領地の農民であり、家臣がそれを指揮するのである。


そもそも、武芸者は自らの訓練法、修行法を公開していない。

弟子になって初めて教えてもらえるものである。しかも、かなり個人の力量に頼っているところがある。効率的な訓練など、望むべくもない。


しかし、ここでの新兵訓練は、基本的に皆が卒業できるようになっている。

もれれば、輜重兵として再訓練コースへと配転されていく。

そう意味では、まさに職業軍人となるのである。彼らは帰る家のない次男三男、浮浪者、孤児たちが多いのである。


話は変わるが、さすがは、自ら鍛えていたという九鬼兵団。

種子島基本兵コースを皆が簡単に突破していた。

今までの日本本土の気候よりもかなり暖かい地方なので、海兵たちも再訓練が行われている。


だが、海兵師団の訓練はここから本番であった。

九鬼義隆は、これで海兵として戦場に出ることができる。そう思っていた。

しかし、その甘い観測は打ち砕かれることになる。

そもそも、勘違いしているが、大名たる身がそのような訓練を受ける必要などないのだ。

日本人の曖昧なところが悪影響を及ぼしていた。

やりたいことを、きっちり、はっきりといわないと、皆が勝手に忖度してありえない方向に向かうことがあるということだ。


これからの戦場は、熱帯、亜熱帯である。

精鋭部隊は、屋久島に派遣され、そこで部隊は特殊作戦部隊に入るための訓練に入るのであった。

所謂、レンジャー部隊である。

その中でも、スカウトスナイパー部隊に入るためには、さらに厳しい訓練と射撃の腕が求められる。

九鬼義隆はまさに、その課程に自ら迂闊にも入りこんでしまったのである。

本人は、海兵団の指揮で十分と思っていたが、もっとも厳しい訓練の部隊に入隊してしまっていることを知らなかったのである。


一か月をナイフと銃のみで山を徘徊するという地獄の訓練であった。

通常の海兵は1週間である。


しかも、敵兵役として、教官のチームが攻撃を敢行するという、ある意味本当の殺し合いである。


教官は、伊賀甲賀から精鋭中の精鋭忍者が選ばれている、ある意味山には非常になれている。

屋久島の密林でまさに死闘が繰り広げられる。銃は空砲であるが、ターゲティングされて射撃された場合、兵士は死亡と見做され、失格となる。

まさに、地獄だった。

食料は尽き、水は木の茎から得るような生活を強いられる。

しかも、抜け忍狩りの追っ手がかかっているような状態、兵士たちは次々と落とされている。


義隆は、垢塗れで藪に潜んでいる。

その時、上から殺気を感じて避ける。

苦無を翳した忍が落下してくる。

その手を取って投げを打つ。

そして、ナイフを首に当てる。

これで、3人目の教官を倒した。


何か食う物がないか、教官の懐を探る。

運よく、クッキーを発見してむさぼりくらう。

教官たちは、基地から出撃しており、食料を持っている場合があった。


一体何日立ったろうか、意識が飛びかける時がある。

しかし、さすがに一角の武将、それでも、自らと戦って生き延びている。

現代人ではとても無理なことでも、精神力で何とかする。

まさに、精神一到である。


戦国武将ともなれば、その上を超えた人間であったのである。

すでに、ゴール地点近くに到着し、潜伏している。

あとは、決められた日数をやり過ごすだけだ。

あと2日。

食い物も水もない。

彼は路傍の石となって、そこに打ち捨てられていたのである。すでに、完全な無の境地、彼は石であった。


朝が明けた。

しかし、石に朝も夜もない。

そこに、いるそれだけだ。


「皆、よく頑張った。今日で終了だ、皆帰還せよ」

ゴール地点の方から誰かが呼ばわった。

やっと終わったか。彼は石でやることを止め立ち上がろうとするが、石であり過ぎた。

何人かの兵達が、すぐ横から立ち上がった。

すぐ横にも石がいたのである。

何とか力を入れようとした瞬間。

「馬鹿者めが!」

出ていった兵士が捕まった。

何と!悪辣なことに、それは嘘だった。

確かに、数えてみると29日しか過ぎていないのである。


そのまま、義隆は気を失ってしまった。


30日経過後、義隆は発見された。

衰弱で死にかかっていた。

捜索隊が発見しなければ死んでいたところであった。


全身がやせ衰え、激しく衰弱していた。

しかし、彼は合格したのである。

スカウトスナイパー部隊に。


だが、彼は回復すると、それを固辞した。

自分は見分が狭かった、世の中は広く、上には上がいる。某は、真珠づくりこそ自分の生きる道であると確信しました。と


こうして、戦場での活躍を約束された希代の武将になるはずだった、九鬼義隆、真珠大名となり、南国で黒真珠の養殖に精を出すことになる。


人は彼の事を黒真珠大名と馬鹿にする。しかし、彼の実力は折り紙付きである。

そして、後に奄美大島で黒真珠の養殖を行う傍ら、奄美兵団を訓練し、世界最強兵団の一角を作り出す。琉球キャンプではみ出したものは、この奄美キャンプに送られて地獄を見るようになるのは、もう少し後の事である。






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