第44話 外交使節

044 外交使節


九鬼義隆が、やめればいいのに、いらぬことを言ってしまい地獄の一丁目へと進んでいたころ、戦艦大和は、琉球本島に向かっていた。

黒真珠養殖のためには、最低でも奄美大島を確保しないと難しい。そのための外交使節である。

竹中半兵衛、黒田官兵衛の二人が外交使節として選ばれた。

「そもそも、明の柵封地なので、切り取りした方がよいのでは?」

「そこよ、下手に刺激すれば明(中国のこと)が軍を出す可能性がある。」

「ですが、その程度で引き下がるくらいならやめればよいのでは」

「まあ、そうなるな」

しかし、いきなり宣戦布告という訳にもいかない。

こうして、二人は、辺りを威で払うガレオン戦艦で琉球本島に向かっているのである。

いまだ、戦端を開くにも、兵站線の態勢が整っていない。


種子島、屋久島、薩摩いずれも十分に糧食を供給できるような土地ではなかったのである。

今、急ピッチで食料生産増産体制を整えている。主に薩摩芋の栽培だが。

そして、戦費調達のため、ついに菱刈地方の金山の採掘準備が始まっている。

島津義久はそれを聴いて絶句したという。

自国の内部でも知らない情報がなぜ、近畿の大名が知っているのか!


そして、その後本当に金が産出されたとき、義久は完全に心の底から屈服したという。

奴は、ヤバい。逆らえば殺されるに違いない。しかも、簡単に蠅でも殺すようにやってのけるに違いない、と。


琉球王国、まさに尚氏の王朝である。

なかなか、停泊許可が出ず、何とか上陸できたものの、王との面会はできない日々。

「皆、案外武士なのですな」

「そうだな、官兵衛、皆、刀を吊っている」

琉球の兵士は勇猛果敢だったが、本土には聴こえてくることはないのだ。

本来は島津家久がついてくる予定だったが、海兵師団の訓練に参加することになったということで来ていない。


故に、島津家家臣の斡旋でやってきていたのだが、西戎大将軍の名は、琉球では知られていない。おそらく、日本でもあまり知られていない、珍奇な部類の役職、中華では存在したが、日本では、おそらく無かった。


琉球と島津はたまにやり合う程度なので、難敵だが、負けているわけではないとの考えを王朝では持っている。


「我が殿、鈴木大和守は西戎大将軍の職に当たり、日乃本の西部全域を支配下におさめ、兵数十万の大軍を統制しておりますれば、琉球王に置かれましても、その威に服するように、お願いに参りました」数十万というのは、『白髪三千丈』というような、大げさな言い方である。


玉座の王は、側近に何やら言っている。

「そもそも、鈴木何某とやらは、日本王の配下、余は琉球王。格下に服することはできぬ。明の皇帝に服する余を愚弄するということは、明の皇帝陛下を愚弄するということと同じであるぞ」と文官が代わりに述べる。まったくその通りである。

明から見れば、日本も琉球もあまり変わりないのだ。

どちらも遠すぎて、どうでもよいのだった。


そもそも、このような言葉をいえば、道雪であれば、激怒するところである。

「日本王ではございません。天皇にございますれば、皇帝と同じでございます」

「だからといって、余が鈴木何某に服する理由にはならん。たとえ、大船で来られようともな」

そもそも、琉球もかなり激戦の後に統一された王朝なので、戦争には自信がある。


こうして、交渉は難航に次ぐ難航で難破してしまう。

最後は、島津家家臣が激昂して、詰め寄ろうする場面があったが、琉球武官のハイキック一閃で気を失った。


「これが、噂に聞く琉球唐手か」と竹中半兵衛は書き留めた。


「これでは主命を果たせませんが」

「官兵衛、これでよいのじゃ」


「来年は、戦場でまみえましょうぞ」それが宣戦布告であった。


・・・・・

臣、御上の威光を天下に遍くしろ示す候ために、奔走す。

されど、御上の恩徳を知らぬ者あり、臣は、鎮西大将軍の任を負い候らえば、琉球に使いものを送るも畏れ多いことにも服すること知らず、中華の威勢を嵩に切るばかり候なり。伏して願う、臣に、琉球討伐の任を命ぜられんことを。また、その際は、南蛮の輩を討ち取るために、鎮南将軍の職を親補せられんことを。謹厳恐恐 鈴木大和守


このような書状が、御所に届けられた。

簡単に言うと、鎮西将軍では、いうこときかんから、鎮南将軍の位をよこせということらしい。

そもそも、天皇は、琉球を討伐せよと命令したことは一度もない。

しかし、お礼の供物が、職位一つで手に入るのなら安いものであった。

それだけの供物であった。財政的に苦しい公卿にとっては、どうでもよい琉球を攻撃することなど何ら関心がなかった。


鎮南将軍の辞令が発布されることになったのである。



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