第43話 奄美大島

043 奄美大島


密かに、黒真珠養殖計画を承った九鬼義隆であったが、意外なことを聞くことになる。

「おお、義隆、久方ぶりじゃな」艦隊副司令の兄、澄隆と要塞内で遭遇したのであった。

「兄者!」

「元気であったか」

「はい、訓練もおさおさ怠りなく、今度こそ戦場でとおもうておりました」

「そうか、それで、殿の密命とはなにか」

「はい、奄美大島にて、また黒真珠なるものを養殖せよとのことでござった」

「ふむ、そうか。しかし、これは困ったな」

兄が顔を曇らせる。

「どうかされたのですか」

「うむ、じつはな、奄美大島というのは、琉球の勢力なのだ」

「え?島津は支配権を認めたのでは?」

「島津と琉球王国の間では、双方が異なる見解を持っている。つまり、奄美を実効支配しているのは、琉球王国側ということだ」兄の顔は冴えない。


それは、海域図を作成していた艦隊が奄美大島に帰港しようとしたときに、判明したのである。地図をみれば、一目瞭然だが、沖縄本島のすぐ傍にあるのだ。当然といえば当然である。


「我ら志摩海兵団が先鋒を努めましょう」

「馬鹿者、職人を死なせたらどうするのだ」

「大丈夫です、皆、この日が来ることを夢見ていたものばかりです」

「しかし」

義隆は真珠大名の渾名を何とかしたいという一念を持っていたのである。

「島師団長と相談してみよう」

「お願いします」


海兵師団長、島左近。

彼の前には、問題が積み上げられていた。

キャンプ種子島での訓練場の設営、そして新兵が大量に入隊したのである。

訓練場では、今まで、淡路島で足りていたのだが、ある男が突然みょうなことを言い出したのである。

「これからは、主戦場は海浜島嶼である。しかも南方方面への侵攻が予定されている。訓練キャンプをまずは、種子島に移すのだ」

さすがに、もう西日本に敵はほぼいない状態なのは皆知っていたが、戦いがさらに南方に向かうと知っていた者はごく一部であった。

「琉球を占領したら、今度は琉球本島にキャンプを造営し、徹底的に密林地帯の戦闘訓練を行う必要があるぞ」


その一言で、新キャンプ増設と新兵(薩摩兵)の訓練が急務となっていたのである。

幸いにして、薩摩隼人は身体強健、戦意旺盛なので、訓練を積めば精鋭中の精鋭になるであろう。

新キャンプ造営のため、淡路国大名の九鬼澄隆も呼ばれていたのである。

さすがに、軍馬の繁殖は、阿蘇山周辺で行うことが決まっていた。

「馬といえば、阿蘇山と決まっておるのじゃ」その男の発言は全く偏ったものである。

偏にある種の思い込みにより行動しているのだ。


兵站線を南方方面に伸ばすのであれば、近畿からとはいかないのは当然であった。

そして、軍事基地といえば沖縄本島、男の頭には、偏りの激しい思い込みが存在している。造船所も同じ流れで決定される。


「志摩海兵団?初めて聞きますが」島左近は首を捻る。

「ああ、実は弟が今度の戦闘に参加したいといっておってな」

「はあ、了解しました。今、島津の兵に訓練を施すことになっているので、一緒に訓練に参加していただければ、海兵として鍛えられることでしょう」

「よかった、左近殿頼みます」

「はい、弟御の部隊をお預かりします」

こうして、九鬼義隆の部隊は島左近預かりとなる。

ここら辺が日本語の曖昧なところで、部隊を預かるが本人こみの話にすり替わっていく。


だが、義隆は海兵師団の恐ろしさをまだ知らなかったのである。

戦国最強の部隊の訓練は最凶であった。


「新兵諸君、貴様らは今から奴隷となった。奴隷から解放されるためには、この訓練を耐え抜いて卒業して人間に昇格するしかないのだ、わかったか!」鬼のような武将(軍曹)が叱咤する。


そもそも、海兵隊の要員はある種の信念(信仰)を刷り込まれたものが多い。

その信念ゆえに厳しい訓練を耐え抜くことができたのである。

今ここにいるものでどれだけ卒業できるかは未知数だった。


種子島の太陽は高くが大地を熱く焼いていた。



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