第41話 内城壊乱

041 内城壊乱


「これにて、演習を終了する、残念ながら討ち死にしたもの達に敬礼!」道雪の声が響く。

鈴木大和守の家臣が皆敬礼する。


「道雪、ここにいる者たちは、未だ我らの武力を信じようとしていまい」先ほど激怒した男が、島津家家臣をにらみつける。

「は、しかし、これ以上は実際にやって見せねば承服しないでしょう」

「いや、さく裂弾で内城を砲撃せよ、これ以上四の五の言うのであれば、島津は火の海となることを思い知らせてやるまでよ」この男は基本的に頭がおかしいのだが、ここまでは、好戦的ではない。いつもなら、怒りを納めるもの達がいるのだが、今日は残念ながらいなかったのである。


「は、では、島津家の方は内城から兵士を撤退させるように命令をお願いします」道雪の依頼はなんとも承服しがたいものだった。

「今までは、我らは訓練モードだったのですぞ、本気の一端をお見せしましょう」

信号手が手旗で海に向けて、なんらかの指示を出している。


「かまわん、撤退せぬものには、目にもの見せてくれん!」

「早く、撤退指示を、殿がいつになく不安定です、このままでは暴走しかねませんぞ」


海兵隊がゾロゾロと後退していく。

さすがに自軍の砲撃の巻き添えを食らいたくはない。

「う~む、誰かお目付け役を連れてくるのだった」あまり困った風でもなく道雪がいう。

彼は基本的に男のいう通りに実施するだけなのである。


「貴公は、城に入らんのか、真の恐怖を味わせてやろうという物を」男が島津家家臣を徴発する。


「艦隊から連絡、何発撃つのか?であります」

「砲が焼き付くまで撃て!」

「3連斉射である」と道雪。

「は」家臣たちは基本的に男の言う通りに動かない。

皆、常識の範囲を持っており、常識外の命令は、確認してからしか実行しない。


兵達が引くとすでに夕刻に近づいていた。

砲撃命令の手旗が振られる。

その時、島津の人々は本当の恐怖を知ることになった。

次々と戦艦の舷側の大砲が火を噴く。

それは、訓練でも全く同じ。まあ、それでもかなりの衝撃なのだが。

次々と内城に炎の柱が吹き上がった。

そして、爆発の轟音が届く。

辺り一面が爆発煙に包まれて、濛々とする内城。木造の建物からは炎が上がる。

しかし、第2斉射はその木造の建物すら残らず吹き飛ばす。

そして、第3斉射が、石垣や土塀、堀などを破壊し、そこはただの小高い丘のような不毛の地へと変化させたのである。


「なんという、なんということだ」島津義久が泣いた。

内城は、まさに壊乱状態となってしまったのである。

一体誰が、内城に籠城すれば、鈴木の軍など撤退させることも可能などといったのか?


「己!」乱心した島津家家臣が抜刀して、鈴木大和守に襲い掛かる。

「あ!」

全ての人がこの凶行に一瞬遅れた。

たとえ負けたとしても、卑怯な真似だけはしない、それが島津家であると皆が自負していたからである。


だが、その時、鈴木大和守から恐るべき死の波動が発せられる。右目が真っ赤に光を放っていた。


「この無礼者が!」

刀は差していなかったにも関わらず、恐るべき剣光が鞘走る。

それは、まだ距離が届かなかった。凶行の士は、剣の攻撃範囲外にいたのである。

だが、頭の先から半分に裂け始めて、真っ二つに割れる。周囲を血まみれにしながら。


「気でも狂うたか、れ者め」

島津家の4兄弟、重臣達は初めて知ってしまった。

この男と争ってはならないと。

後に、人々から鬼島津と恐れられる人々はこの日初めて、本当の『デーモン』を見たのである。


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