第39話 交渉
039 交渉
「さて、この度、お訪ねしたのはほかでもありません。我が殿は、南九州の統治は島津家にお願いするとともに、肥前に逃げ込んだ大友家の降伏、服属化をお願いしたいと考えております。その代わり、種子島他、諸島の統治権の移譲をお願いしたいのです。」
戸次道雪の言っていることは、島津にとっては全くの損である。
「そのような、戯言を聞くことはできん」次男義弘が長男に変わり口火を切る。
「そうでしょう、しかし、今後我が国は、より広い領土を獲得していきますので、島津のお三方にも別領土の支配統治をお願いする機会が訪れることになるでしょう。さすがに独立を認めるわけにはいきませんが、鈴木の重臣としてご活躍をお願いしたいと思います。
残念ながら、この言を聞き入れていただけない場合は、相応の実力行使を伴います。その時は、おそらく島津は半壊することでしょう」と事も無げに道雪がいう。
「貴様、そこまで言うか!」次男は猛将である。
「大友の敗走を見ても、現実が追いついてきませんか?」
南九州の雄、大友家はたった20日程度の戦闘で、ほぼ壊滅、敗走を余儀なくされたのである。
「我々としては、この錦江湾周辺だけ占領すれば事足りるので、1週間もあれば十分と考えています、しかし、両面攻撃の必要性から、九州北部から、我が援軍が攻撃してくるため、南九州は大混乱することになるでしょう」
戸次道雪の語る予想には、島津が激戦を行うことなど考えられていない。
その眼には、彼らの奮戦など入っていない。自分たちの軍団が予定通りに侵攻してくる未来しか見えていないのである。
「そこまで、言われて黙っていることはできん」そこは薩摩隼人、そこまで言われれば戦わざるを得ないのである。
「そうでしょうな、我々も島津家が簡単に言うことをきくなどとは思ってもおりません」
では、何をしにきたのか!と島津兄弟や家臣も思ったであろう。
「そこで、我々は、実戦形式の軍事演習の提案を行います。」
「演習?」
「はい、この内城を攻略する演習を行います。実戦演習では、実包をつかいますので、城に籠る場合は死んでも、文句を言われぬように」
「どういう意味だ」
「はい、実戦さながらの戦いでこの内城を攻略します、しかしあくまでも訓練なので、戦ではござらん」
「我々は、城で戦えばいいのか」
「戦いたければどうぞ、しかし命の保証はできかねますので、外で見ていた方がよいのではないですかな、あくまでもこのように戦うという形式を見ていただいた後に、もう一度、戦さをするかどうか問い直したいと思います。訓練で占領した城は、訓練終了後、明け渡します。しかし、修繕はご勘弁くだされ、戦の場合は、城修繕期間を3か月とって、その後干戈を交えましょうぞ」と道雪は城攻略の仕方を見せてやろうというのである。
皆が皆、この男が何を言っているのかわからなかった。
言っていることは理解できても、なぜこのようなことをするのか理解できなかったのである。
あくまでも、戦国最強家臣団にこだわる男の所為であった。
戸次以外の家臣はそんな面倒なことはやらずに、攻略すれば何ら問題にならないと考えていた。
戸次は、なんでも殿の言う通りです。と答えるのであった。
「儂がやる」そう答えたのは、次男義弘であった。
「駄目です、彼らの戦力は、尋常ではありません」三男歳久が何らかの情報を持っているのであろう。
「では、私も兄者にお供しましょう」四男家久がいう。
「では三日後、内城攻略演習を行いましょう、是非とも生き残りください」
音もなく、戸次道雪が立ち上がった。誰も、戸次道雪を捕らえようとはしなかった。
そういう卑怯な真似は彼らはしないのである。
こうして、『内城攻略演習』が行われることが決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます