第37話 神の国

037 神の国


大友宗麟は、近ごろデウスに深く帰依し、神の国を日本に招来せしめることを目的にするようになった。まさしく、生まれ変わったのである。


だが、その反動で、寺社仏閣を破壊するなどの行動も見られるようになった。

家臣たちは、そのデウス教に入信していないものが多いため、殿が狂ったのではないかと疑心暗鬼が深まりつつあったのである。


そもそも、彼が入信したのは、先進の技術を南蛮から取り入れるための方便であったのだが、木乃伊みいら取りが木乃伊になるを地でいっていたのである。


そして、そこに西戎大将軍からの攻勢が始まる。

戸次べっき、吉弘両家(大友家重臣)に猛烈な切り崩し工作が入り始める。

戸次道雪、吉弘鎮理はすでに鈴木大和守家の重臣であり、西国最強と言われる軍団を指揮している。この時代の流れは、血縁を頼ってでも出世、家の繁栄を目指すものなのだ。

見よ!真田幸隆は、それを見事にやってのけ、大名になったではないか!と。


息子からの手紙にも、殿は、能力のあるものをどんどん登用する。

そして、報酬は、自分よりも先に家臣に与える立派な方であると書かれている。

今までのなかでも、事実そうであった。

領土はほぼ、家臣に与え自分は大身の大名にならずにいたではないかと。


事実はそうなのだが、本質は、領土ではなく商売を重要視していただけなのだ。

勿論、そのような内容は他家の家臣が知るところではない。年貢こそが収入の本筋であると、多くの者が信じていた。


「戯けたことを申すな、南蛮の銃砲、国崩しの方が優れているに決まっているであろう」

宗麟は降伏勧告を受け入れよという家臣を叱り飛ばした。

彼も、南蛮製の銃砲と必殺武器をひそかに輸入していた。

勿論、自信もあったのである。

そのために、代金として自国の女子供が奴隷として売られたりしていたが。


確かに、この当時の技術力からすると南蛮製武器の方が優れていたのだ。

そう、ある男が奇抜な兵器を作り始めるまでは。


「ドン・フランシスコに神の祝福が有らんことを」耶蘇会の神父が祈った。

「そのためには、鈴木大和を打ち砕く武器がもっと必要なのじゃ」

「マカオのカピタン・モールに相談いたしましょう」

「頼むぞ、神の国のためじゃ」

「はい、お任せくださいフランシスコ」ドン・フランシスコとは、大友宗麟の洗礼名である。


こうして、戦争流れが着々と進んでいた。


豊後、臼杵城は海城であった。

ここは、もともと干拓を行い普請した城である。

この城は、陸上からは攻めにくいのだが・・・。


その海城の洋上に艦隊が出現する。

「撃ち~方用意」

「撃ち~方用意、よ~そろ~」


「撃て~!」

「発砲!」伝声管に命令を伝える士官。


片舷7門の大砲が煌めき火と爆音と濛々たる煙を発生させる。

甲板の砲も発砲する。

戦艦数は4隻。

30発を超えるさく裂弾が何事もなく発射された。

全弾が臼杵城内でさく裂する。

さすがは、精鋭中の精鋭の砲撃であった。


爆炎と煙が次々と立ち昇る。

城内は阿鼻叫喚の地獄に変わる。

この時代にさく裂弾は存在しなかったが、すでに男の軍では開発が完了していた。

既に、時代の常識はうち破られていた。

信管も改良され、バネを使ったものへと変化していた。


「3連斉射!」

「3連斉射!よ~そろ~」

次々と発砲が連なる。

まだ、開発途中だが、駐退機も存在しており大砲を元の場所に戻す距離が縮んでいる。

故に、第2射までの時間短縮が進んでいるのである。

こうして、お互いの神の名を懸けた決戦は開始されたのである。

状況は、八百万側の神が圧倒的に有利に見えたが。


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